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あのイブラ様が退場で同僚に謝罪… 今も“毒舌”ながらミラン10年ぶりセリエA制覇への精神的支柱に
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/02/04 11:01
39歳となっても相変わらず豪放磊落なイブラ様だが、チームをしっかりとまとめている
百戦錬磨のイブラヒモビッチは、一回り年齢の違うチームメイトたちを指して「トッププレーヤーじゃない」と忌憚ない意見を吐きながら、「だが成功への飢えと意思がある。だからもっと強く上手くなれる」と尻を叩く。己の心の弱さをねじ伏せろ、プレッシャーなど喰らい尽くせ、と発破をかけるのだ。
「俺様はズラタン。ジンクスなど破ってやる」
老兵ズラタンには自らに課した挑戦もある。
「ミランには『出戻った選手は成功できない』というジンクスがあるだろう。ミラネッロ(練習場)に帰ってきたとき、俺は決めたんだ。“俺様はズラタン・イブラヒモビッチだ。ジンクスなど俺が破ってやる”と」
フリットやシェフチェンコ、カカーといったレジェンドOBは、キャリア終盤にミランへ2度目の入団を果たしたが、いずれも鳴かず飛ばずで終わった。
イブラヒモビッチの履歴書には、彼らのようなバロンドールの受賞歴はない。しかし、新型コロナウイルス陽性反応や度重なる怪我を乗り越え、老体に鞭打ち、体を張りながらなおゴールを量産するズラタンに、心を揺さぶられないミラニスタがいるだろうか。
敗れはしたが、コッパ・イタリア準々決勝で見事なコントロールショットを決めた後、誰もが怯むような巨漢FWルカクに額をぶつけた獣の闘志を見て、ハートに火をつけない仲間がいるだろうか。
今季のミランは“イブラ頼み”ではない
頼もしいことに、今季のミランは決して“イブラ頼み”ではない。
イブラ抜きで臨んだ10月1日のEL予選プレーオフでは、困難なアウェーゲームの末、どしゃ降りのなか互いに12人が蹴り合う壮絶なPK戦を制し、チームが一気に結束した。
昨年11月下旬からひと月半の間、左太腿損傷のエースを欠いたチームはリーグ戦8試合を5勝2分1敗で凌ぎ、EL決勝トーナメント出場も決めた。
シンデレラボーイのMFハウゲ加入やMFダニエル・マルディーニの健闘が刺激となり、チームに新しい風が入る一方、経験豊富なベテランDFキアルとキャプテンのロマニョーリが統率する最終ラインは昨季以上に堅牢さを増し、それに比例して左右のSBコンビが縦へどんどん攻め上がる。
突貫小僧カラブリアや中盤のフィジカルモンスター、ケシエは起用法や練習メソッドを巡り、就任当初のピオリ監督と衝突した。だが、ピオリ流に従った結果、2人は見違えるようなパフォーマンスでキャリアベストのシーズンを送っている。