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【箱根駅伝】“スター選手”相手に区間賞、法大1区・鎌田航生は何者なのか 「時計を見る必要がなかった」
text by
加藤康博Yasuhiro Kato
photograph byJMPA
posted2021/01/30 11:04
1区を走り区間賞を獲得した法大・鎌田航生。東海大の塩澤、順大の三浦、青学大の吉田らスター選手に負けない強みがある
「次は誰が出るのかなと思って見ていました」
だが指揮官は自信を持って鎌田を送り出したわけではない。坪田監督がスタート前に鎌田に伝えたのは「先頭が見える位置で粘ってくれ」ということだけだった。今季はコロナ禍の影響もあり、他大学のエースと真正面からぶつかるレースを経験していない。周囲との力関係を計りかねていた。
1区での起用が伝えられたのは12月の末。鎌田はそれを冷静に受け止めた。スタートした直後のスローな展開にも「こんなレースは珍しいなと。前を引く選手が変わるたびに次は誰が出るのかなと思って見ていました」と状況を楽しむ余裕があった。散発的にペースが上がったが、10kmを過ぎてからはレースが膠着することを予想し、ひたすら足を溜めた。そして18km付近の六郷橋で自分から仕掛ける。
「例年、ここでレースが動くので、誰かが仕掛ければついていくつもりでした。ただ今回は誰も行かないので自分から仕掛けた感じです」
ここからは主導権を握ってレースを進め、塩澤とのスパート合戦を制した。最後に力でねじ伏せる強さが印象的だった。
「他の選手は上げ下げに反応していましたが、自分は集団の中でうまく位置取り、その影響を受けませんでした。終盤まで周りのペース変化に付き合わずに、最後まで力を溜めたことが勝因だと思います」と鎌田は振り返る。
鎌田はほとんどラップタイムを確認しなかった
レース巧者ぶりを見せての区間賞。鮮やかな勝ち方だったが、坪田監督は鎌田の強さをどう見ているのだろうか。
「ひとりでペースを作れるのが彼の強みです。後半に苦しくなってからも、その力は鈍りません。試合になると集中力が増し、練習以上の力を発揮し、崩れない点も強さと言えます」
今回の1区、鎌田は途中ほとんどラップタイムを確認していない。ペースの上下がある中、駆け引き勝負になると感じ、体の感覚を優先した。「時計を見る必要がなかった」と鎌田は言う。
周囲の状況を見ながら走る能力も高い。先に挙げたように自分の周りに誰がいるか、どんな展開かを常に把握、予想し、自分のリズムに徹する状況を作りだしている。