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148m息継ぎせず意識喪失も恐怖感ゼロ フリーダイビング歴2年で世界ランク4位・歳永ゆきね41歳の“異能”
text by
間淳Jun Aida
photograph byYukine Toshinaga
posted2021/02/01 11:01
歳永ゆきねはアーティスティックスイミング経験者とはいえ、競技歴2年で世界大会を優勝した実力の持ち主だ
自作の水着で出場しているワケ
新型コロナウイルスの感染拡大で、強豪国の中国やロシアの選手が入国禁止となったことが一因ではある。だが、世界ランキング上位の選手も出場する中、幸運だけでは優勝できない。そして、運やめぐり合わせも選手に不可欠な力なのだ。
自作の水着で出場しているのには理由がある。
フリーダイビング用のスーツは1着10万円以上。2年も経てば買い替える必要があり、練習でも大会でも1着では足りない。専用のフィンやゴーグルも高額である。さらに、フリーダイビングの練習ができる場所は全国でも限られていて、ダイビングスポットへも船で行くことが多い。練習には万が一に備えて安全確認するパートナーが必要となる。練習費用のほか、移動や滞在でも出費がかさむ。
会社経営者や弁護士などの選手が多い中で
プロのフリーダイバーは一握りしかいない。
ほとんどの選手が働きながら競技を続けている。それゆえに、会社経営者や弁護士、医療関係といった比較的収入が高い選手が多いという。歳永選手の仕事は、アーティスティックスイミングの水着製作。日本代表の衣装を作った経験もあるが、収入は不安定だ。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大で、売り上げは大きく落ち込んだ。練習用も大会用も、自分で水着を作れば全て無料。受注を受けて作った水着の余った生地や装飾を使っているからだ。スパイダーウーマンの水着は、スパイダーマンの全身タイツをオーダーされたときのもの。金銭的な負担を考え、10万円を超える競技用スーツの購入に二の足を踏んでいる。
日々のトレーニングも、お金をかけないように工夫している。日常生活の何気ない時間に息を止めるのも、その1つだ。
電車に乗ったときは、次の駅に着くまでの時間。仕事でミシンを使うときは、肩から袖の間を縫う時間。水に潜らなくてもトレーニングはできる。歳永選手が息を止めていられる時間の最高記録は5分27秒。長く息を止めるコツは「脳を使うと酸素を消費するので何も考えない。苦しくなったら、きょうの晩御飯は何にしようかなと苦しさを紛らわせること」と話す。