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148m息継ぎせず意識喪失も恐怖感ゼロ フリーダイビング歴2年で世界ランク4位・歳永ゆきね41歳の“異能”
text by
間淳Jun Aida
photograph byYukine Toshinaga
posted2021/02/01 11:01
歳永ゆきねはアーティスティックスイミング経験者とはいえ、競技歴2年で世界大会を優勝した実力の持ち主だ
その後も全く恐怖感がないという
薬は頭の痛みを解消したが、苦しいと感じる感覚まで鈍らせた。苦しさは感じていなくても、肉体は限界に達していた。一度ブラックアウトを経験すると、恐怖から競技を辞めたり、記録を伸ばせなかったりする選手も少なくない。しかし、歳永選手には全く恐怖感がないという。トレーニングで磨くことが難しい天性ともいえる感覚は大きな強みだろう。
実は、初の国際大会で優勝した快挙の裏でも、トラブルが起きていた。
自己記録を更新した2日目。深さを示すタグを手に水面に戻っていると鼻栓が外れた。鼻栓は耳抜きに必要な道具。耳抜きをしなければ、水圧が大きくなる水中深くで鼓膜が圧迫されて痛みを感じる。さらに、鼻から空気が漏れて海中に泡を出してしまうと、競技は失格となる。その苦しい状況でも、なんとか水面へと戻りきったのだった。
世界ランキングが圏外から4位に
世界大会で優勝した歳永選手は、世界ランキングを圏外から4位まで上げた。この活躍を知った地元・静岡の会社からは、フリーダイビング用のスーツ2着をプレゼントされた。競技歴2年。フリーダイビングの基本的な技術「マウスフィル」や「フリーフォール」を知らず、手作りの水着と自己流の素潜りで43メートルまで記録を伸ばしてきた。
「フリーダイビングは年齢を問わず始められる。競技の知名度を上げて、魅力を知ってもらうためにも記録を伸ばして大会で優勝したい」
次の目標は50メートル。異色のダイバーの潜在能力は底が見えない。深く、より深く、静寂の海を潜っていく。