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羽生結弦「経験を使えている」小平奈緒「勇気をいただいた」 頂点に立った尊敬しあう2人の共通項とは
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byJMPA
posted2021/01/07 17:01
羽生結弦と小平奈緒、世界の頂点に立った2人は高次元で共鳴する
小平は、羽生からこれ以上ないエネルギーを受け取った
羽生とはスケート連盟の表彰や14年ソチ五輪と18年平昌五輪の選手村などで、これまでに幾度となく顔を合わせている。また、羽生が12年からカナダに練習拠点を移したように、小平も14年春から2年間、オランダに単身で渡り、スケート王国で心技体を磨いた。いわば気心の知れたスケート仲間である。
平昌五輪ではともに金メダルに輝いている。小平が出た女子500mのレースは、羽生が男子シングルで五輪連覇を達成した翌日。羽生は、平昌五輪前年の17年11月にあったNHK杯の公式練習中にジャンプで転倒して右足を痛め、その後の大会をすべて欠場したが、ぶっつけ本番で五輪の舞台に立ち、不死鳥のごとく五輪連覇を果たしていた。
その演技を選手村でテレビ観戦していた小平は、羽生からこれ以上ないエネルギーを受け取って500mのレースに挑んだと言っていた。
「羽生選手は、リンクに立った時に、何も考えなくても技が決まりそうなたたずまいをしていた。自分もこんな風にできたらと思いました」
その言葉通り、女子500mのスタートラインに立った小平の心は無の境地に至っているようだった。結果は五輪新記録となる36秒94。驚異的なタイムで金メダルを手にした。
「羽生選手が金メダルの道を突破してくれて、勇気をいただいた」
レース後にはそんな風にも話していた。さらにはその数日後だ。
「金メダリスト、見ぃつけた」
選手村で弾むような声を聞いて振り向くと、茶目っ気のある笑顔を浮かべた羽生がいた。そこには頂点に立った者同士でしか成立しない空気が流れていたはずだ。
「やっぱり羽生選手の感受性が良かったのかな」
平昌五輪から約3年が経った。羽生も、小平も、コロナ禍中に競技者として生きることの意義を深く考え抜いて、氷の上に立った。そして、チャレンジを続けるからこそ困難に正面から向き合い、高みを目指し続けている。
全日本フィギュアスケート選手権での羽生のコメントを受け、小平はこのように言葉を継いだ。
「経験を生かしていると彼の目に映ったのであれば、彼自身が吸収してくれているということなのだと受け止めています。私自身は自分の時間軸の中で示していくことしかできていません。ですから、やっぱり羽生選手の感受性が良かったのかなと今、話を聞いて感じています」
どこまでも謙遜する小平だが、彼女とて、台風被害と戦う地元長野でのボランティア活動や、偉人の言葉や、ファンからの手紙など、あまたの方角に感受性の扉を開いては自身のエネルギーとしている。感受性とは、頂点を極めた者の共通項なのだ。