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羽生結弦「経験を使えている」小平奈緒「勇気をいただいた」 頂点に立った尊敬しあう2人の共通項とは
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byJMPA
posted2021/01/07 17:01
羽生結弦と小平奈緒、世界の頂点に立った2人は高次元で共鳴する
世界記録を出したことのある1000mでは4位に
北海道帯広市の明治北海道十勝オーバル。フィギュアスケート最終日の翌日である12月28日に開幕した全日本スピードスケート選手権で、小平奈緒は苦しみの中にいた。
昨年11月中旬に同じ会場で開催された全日本選抜の女子500mで2位になり、国内の大会のこの種目で5年ぶりに優勝を逃していた。そこからどのように修正できているかが注目されていた。
厚さわずか1ミリの刃(ブレード)に乗って時速約60キロでカーブに突入するスピードスケートは、精密で細やかな体の使い方が必須となる競技だ。その中でつねに最速を突き詰めてきたのが小平。ところが今季は、体のある部位に違和感を覚え、心地の悪さが膨らんでいたという。
そこで11月下旬にトレーナーのもとへ行き、体をチェックした。すると、トレーナーの指摘と自身が感じていたことが合致し、違和感の原因が判明した。シーズン途中という異例のタイミングではあったが、意を決して体のリセットに着手した。
このため、全日本選手権は全身のセッティングを再構築している過程での出場となった。結果は平昌五輪で金メダルを獲得した女子500mで2位。世界記録を出したことのある同1000mでは4位と表彰台を逃した。
「羽生選手に名前を出してもらえるのが恐縮で」
「やるべきことにはしっかりと取り組めている。余計なプライドは持たないで、目の前にあることをしっかり自分のものにしていければと思っています」
レース後、オンライン取材の画面の小平は毅然と前を見つめていたが、「こうやって記録や順位がつくと、目をつぶっても耳をふさいでもいろんな評価を感じ取ってしまう」とも吐露していた。
ところが、取材陣とそんな風なやり取りがあった後のことだ。全日本フィギュアスケート選手権を取材した記者から、「羽生結弦選手が、経験を活かせている選手としてフェデラー選手と小平選手の名を挙げていた」というエピソードを聞かされ、感想を求められた。すると小平は、一瞬だけ頬を緩ませながらも、安易におもねることなくこう言った。
「羽生選手に名前を出してもらえるのが恐縮で、フェデラー選手と並べられるのも恐縮です。これは羽生選手の気遣いだと思います。(出身地である)長野での開催ですし、周りへの配慮として本当にさすがだと思います」