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羽生結弦「経験を使えている」小平奈緒「勇気をいただいた」 頂点に立った尊敬しあう2人の共通項とは
posted2021/01/07 17:01
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
JMPA
コロナ禍に揺れ、競技者たちにとってはあらためて自己を見つめる日々となった20年。年末に行なわれたフィギュアスケートとスピードスケートの全日本選手権で、トップアスリートならではの高次元の心模様が垣間見えるコメントがあった。
長野市、ビッグハット。12月25日から27日まで行なわれた全日本フィギュアスケート選手権で、男子シングルを5年ぶりに制したのは羽生結弦だった。
昨年の羽生は、2月の四大陸選手権優勝で史上初のスーパースラムを達成する幸先の良いスタートを切ったが、その直後に新型コロナウイルス感染症が世界を襲った。そのため、羽生は拠点のカナダを離れて日本国内で調整を続けることになった。
練習は真夜中など他の使用者と被らない時間帯で、しかもたった1人。ブライアン・オーサー・コーチはおらず、練習メニューやプログラムの振り付けを自分で考えるなど、厳しい状況が続いた。「自分のやっていることがすごく無駄に思える時期があった」と語ったように精神的な苦しみも深く、秋ごろには「暗闇の底に落ちていくような感覚があった。どん底まで落ち切った」という。
小平さんのように、経験を使えている選手をすごいと
だが、羽生はそこから自力で這い上がった。ショートプログラムではスピンに「0点」をつけられながらも首位に立ち、フリーでは羽生ならではの世界観を存分に見せつけた。
数カ月に及ぶ孤独なトレーニングを強いられてなお、これほどの完成度に達することができるのかという圧巻のパフォーマンス。その結果、全日本選手権で通算5度目の優勝を飾った。
今季はシニアデビューした10-11シーズンから数えて11年目。26歳になった羽生は、優勝後に2人のアスリートの名を出して、こう言った。
「競技人生を長く続けてきて、今まではテニスの(ロジャー・)フェデラー選手や、(スピード)スケートの小平(奈緒)さんのように、経験を使えている選手をすごいと思っていました」
名を挙げた2選手の競技は、対人スポーツのテニスとタイム競技のスピードスケート。対して、自身は採点競技のフィギュアスケート選手である。そこに羽生は何らかの難しさを感じていたようだ。
「フィギュアスケートは(経験を)使いづらいと正直思っていました。でも、やっとそれを生かせるようになってきたのが今回の試合でした」
その言い回しからわかるのは、羽生自身が一段高いところに上がったと感じていることだった。