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チャンピオン井岡一翔が犯したミスは2つだけ 田中恒成の「人生をかけた」試合で見せつけた“格の違い” 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2021/01/01 17:08

チャンピオン井岡一翔が犯したミスは2つだけ 田中恒成の「人生をかけた」試合で見せつけた“格の違い”<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

井岡一翔は5回に続いて6回にも田中をダウンさせ“レベルの違い”を見せつけた

ダウンした田中は「もう倒すしかない」と

 対応力こそ井岡というボクサーの生命線。間違いと誤算をたちまち修正したチャンピオンは距離を巧みに操りながら、ディフェンスにおいてもオフェンスにおいても優位なポジションをこまめに取り続け、田中にプレッシャーをかけていった。

 身体能力の高い田中のパンチはとにかく速くて見栄えはいい。しかし井岡は田中が4発、5発とパンチをつなげてこないことを知っていたし、ポジショニングとカバーリングを巧みに使って芯を外し、田中に見た目ほど効果的な攻撃を許していなかった。

 こうしてチャンピオンは「ラウンドを重ねるごとに(自分のボクシングが)はまっていった」と自信を深める。徐々にかつ確実にペースを引き寄せると、5回に最初の見せ場を作る。ラウンド終盤、近距離でシャープに振り抜いた左フックがカウンターとなって決まり、田中がバッタリとダウンしたのだ。

 ゴングに救われた田中はコーナーに戻り、「もう倒すしかない」と口にした。試合はまだ前半だ。ここは落ち着いてしっかり立て直し、後半に活路を見いだしたほうがいいと思えたが、この試合を「ボクシング人生の転機」と位置づけていた25歳の田中に気持ちの余裕はなかった。

チャンピオンは正面突破を許すほど甘くない

 井岡は対照的だ。「途中で田中くんも気持ちで戦ってきているのが分かったので、自分は逆に熱くならず差を見せつけようと思った」。仮に倒れたのが井岡だったとしても、やはり冷静に対処したのではないだろうか。4階級制覇王者はますます本領を発揮していった。

 6回はさらにギアを上げ、多彩なパンチとポジショニングで田中を翻弄し、5回と同じカウンターの左フックで2度目のダウンを追加する。立ち上がった田中も意地を見せて正面から井岡に向かっていったが、正面突破を許すほどこのチャンピオンは甘くない。8回に左フックで田中が大きくグラつくと、主審が倒れそうになったチャレンジャーを救って試合は終わった。

【次ページ】 「格の違いを見せつけるとずっと言い続けてきた」

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