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「感謝の気持ちを」印象的だった紀平梨花の4回転サルコウと選手たちの明るい笑顔【全日本フィギュア】
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byNaoki Nishimura/AFLO SPORT
posted2020/12/30 11:06
4回転サルコウも成功させ、総合得点234.24点のハイスコアで優勝した紀平梨花
「中野先生から『勝ちにいっては駄目』と」
「去年のリベンジができたので、うれしいです」
坂本も言う。
「ショートが終わった後、(指導を受ける)中野(園子)先生から『勝ちにいっては駄目』と言われたので、自分の本来あるべき演技をやろうと臨めたのがよかったです」
4回転ジャンプ、トリプルアクセルのない中、フリーで紀平と4.6点程度の差であったことも、トータルでの滑りの質の高さを示す数字であった。
3位には総合209.75点、ショート6位から巻き返した宮原知子。
宮原も紀平同様、海外を拠点としていたことから、全日本が初戦となった。
「小さな失敗はあったんですけど、やれることは思い切ってできたと思います」
緊張することから不安に駆られるメンタル面を課題にしてきた。久しぶりの実戦で、ビハインドを背負う状況は緊張を強いられる局面だ。その中で納得のいく演技ができたことにこう語る。
「メンタルの部分で、小さな手ごたえは得られました」
選手たちには試合という場への喜びがあった
大会は無事終わった。スポーツ全般で試合を行うことが容易ではない中、選手が最大限の気配りと対処に取り組んでいたのはむろんのこと、開催に携わる関係者の努力、さらには歓声をあげることなく、拍手で「声援」を送り続けた観客の人々、あらゆる人の協力があって、大会は実行された。
紀平ら好演技を見せた選手に限らず、成功、失敗、それぞれにあっても、選手たちには試合という場への喜びがあった。たくさんの笑顔があった。
大会が終わり、2021年3月に予定される世界選手権(スウェーデン・ストックホルム)の代表には、表彰台に上がった紀平、坂本、宮原が選出された。
紀平が抱負を語った。
「世界選手権があればですけど、開催される試合があることに感謝して、感謝の気持ちを表すような演技にしたいなと思います」
その言葉もまた、象徴的だった。