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ユーべ10連覇を目指すピルロ監督 戦友ガットゥーゾ、インザーギは“苦労知らずの天才包囲網”結成
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/12/27 17:01
ピッチの司令官だったピルロ。ユーべを10連覇に導き、名将への階段を登れるか
確かに、唯一インテルを除き、ユベントスと各クラブを隔てる戦力格差は大きい。
しかし、現在首位を行くミランのステーファノ・ピオリ然り、最高齢69歳クラウディオ・ラニエリ(サンプドリア)然り、ピルロを除く19人の監督たちは指導者キャリアにおいて、下位カテゴリーに属する地方クラブの劣悪な環境を経験しており、そこから這い上がってきた叩き上げばかりだ。
ロナウド擁する絶対王者の監督に“さあどうぞ”
どんなカテゴリーにも有力クラブはあり、キャリア駆け出しの若手指導者に与えられるのは大概が残留を目標とする弱小クラブだ。そこから知恵と体力を振り絞って戦力差と下馬評を覆し、戦果をあげることで監督としてステップアップを果たしてきた。
誰もが、自分自身の履歴書に意地を持っている。
天才ピルロには及ばずとも、クロトーネを率いるジョバンニ・ストロッパとて、選手時代にミランで世界一になっているサッカー界のエリートだ。だからこそイタリア中の同業者たちは、指導者に転向すれば現役時代の栄光は雲散霧消し、自らの腕一本で成り上がるしかないことを知っている。
ボコボコの練習グラウンド、ロッカールームと意思疎通ができない悩み、あるいは給与が振り込まれない理不尽な環境、そして何より結果を出せずに解任される苦痛を、初心者マーク付きのピルロはまだ知らない。
なのに、監督転向1年目の彼に用意されたのは、全国一の人気と戦力を誇る名門クラブ。しかも、世界最高峰の男C・ロナウドを抱える9連覇したチーム監督の椅子だ。何もかもお膳立てされて“さあどうぞ”なのだから、反感を覚えない同業者の方がどうかしている。
「ピルロ監督? 知ったこっちゃねえ」
ナポリの指揮官ジェンナーロ・ガットゥーゾは、今季のユーベ新監督の名を知ったとき、ぶっきらぼうにこう言い放った。
「ピルロの監督転向? 俺の知ったこっちゃねぇや」
ミランとイタリア代表で数々の苦楽をともにした彼ら2人が、戦友の堅い絆で結ばれていることを知らない者はいない。立場を変えて再び戦場へ飛び込もうとする親友に対し、指導者として7年先輩のガットゥーゾはあえて厳しい言葉を投げかけたのだ。