吉沢　やっぱりお芝居には将棋のように、わかりやすい勝ち負けみたいな結果はないです。それは人それぞれの感性があるからこそなんですけど。

中村　そこがだいぶ違いますね。将棋は勝てばまあ満足だけど、なかにはやっぱり“悪い手”っていうのがそれぞれにある。長い間トップを走り続ける羽生善治先生は、目先の勝ちに囚われないで“自分の勝負ができる人”なんだなと思ったりします。

吉沢　自分の勝負？

中村　羽生先生は相手がベテランだろうが若手だろうが、相手の得意な形にも飛び込んで勝負される。結果だけじゃなくて“勝つまでの道筋”をすごく大事にされているんです。

「理想とする勝ち方にこそ、個性が出る」

吉沢　なるほど、すごいですね。たしかに突き詰めると、自分がその役柄をしっかり捉えてアプローチして、正しい方向にいけた瞬間が一番満足するというか。自分で自分の芝居が“正解かも”と思えた瞬間が一番嬉しかったりします。過程が美しければ行く先も良いというか。

中村　しかも理想とする勝ち方にこそ、個性が出るんですよね。吉沢さんに「将棋には美しさがある」って言っていただきましたけど、まさに勝つまでに芸術性がある気がします。

　そういう意味では、俳優という職業も決められたセリフのなかで自分の表現をして個性を出す……すごく難しそうですね。

吉沢　でも俳優ってゼロから何かを生み出す仕事ではないんです。台本があって監督がいてカメラマンさんとか音声さんとかたくさんのスタッフがいて、やっと成り立つものなので。

　そのなかで「この芝居は、吉沢亮にやってもらいたい」って思ってもらえる役者でいたい。それが俳優にとっての “個性”というか魅力なんだろうと思います。　

＜撮影＝鈴木七絵＞

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