＜名言3＞
まだ整理はついてないです。藤井さんに4発も食ったことは。
（木村一基／Number1010号 2020年9月3日発売）

◇解説◇
　ユーモアあふれ、なおかつわかりやすい解説で大人気の木村九段は「将棋の強いおじさん」として“観る将”から愛される名物棋士だ。その物腰柔らかな口調だけでなく実力も屈指で「千駄ヶ谷の受け師」として長年トップ棋士として戦ってきた。

　羽生善治九段らの存在もあってタイトルに無縁だったものの、2019年度の第60期王位戦七番勝負で初戴冠（46歳3カ月は史上最年長記録）を果たし、支え続けてくれた家族への感謝の念を口にしながら、涙を流した姿には多くのファンが涙した。

　翌2020年、木村が初防衛を目指した第61期王位戦。挑戦者として現れたのは、藤井聡太棋聖（当時）だった。結果は、終盤の逆転劇（“AI的には”の但し書きがつくが）とみなされた第2局など0勝4敗、スイープで失冠だった。

王位戦での対局Ⓒ日本将棋連盟

　その直後のインタビューで木村九段は「さみしくないって言ったら……さすがに嘘になります」、「一生懸命やったつもりですけど、相手に比べると取り組む姿勢も何か甘かったのかもしれない」と語るなど、ダメージの大きさを感じさせた。

　それでも――木村九段はNHK杯2回戦、藤井二冠との再戦で、両者得意とする角換わりから、木村九段の真骨頂である力強い受けが功を奏して135手で勝利した。これぞ「不撓不屈」。棋界最高峰の“受け師”は何度でも蘇るのだ。