濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“三沢光晴カラー”を身にまとい…ノア・潮崎豪、“もどかしい存在”からGHC6度防衛「名門復興」の象徴に
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byプロレスリング・ノア
posted2020/12/13 11:02
12月6日の杉浦貴戦でGHCヘビー級6度目の防衛を成し遂げたプロレスリング・ノアの潮崎豪。1年を通してベルトを守った
激しい試合を連続でやってのける驚異的なタフさ
下半期、防衛ロードはさらに加速する。8月5日、後楽園で丸藤正道を倒しV3。そのわずか5日後にはGHCナショナル王者である拳王とのダブルタイトルマッチに臨み、60分時間切れ引き分けという大激闘を展開してみせた。“中4日”でトータル90分以上も闘ったのである。
11月22日の横浜武道館大会では袂を分かった元パートナーの中嶋を相手に42分35秒、豪腕ラリアットで勝利。6度目の防衛に成功した杉浦貴戦(国立代々木競技場第2体育館)は51分44秒である。時間が長ければいい試合だというわけではないが、この一戦が12月6日、中嶋戦のわずか2週間後に行なわれたということを見逃してはいけない。結局、7回のタイトルマッチで30分を切った試合は2つしかなかった。それすら20分台後半だ。
試合の激しさでも、それを連続でやってのけるという意味でも驚異的なタフさと言うしかなかった。どの試合も攻撃の中心はチョップとラリアットだ。「倒れないなら倒れるまで打ち込む」という打撃での正面突破。それが迫力につながる。潮崎の逆水平チョップがヒットした時の「バチーン」という音と、それを聞いた観客のどよめきはノア名物と言っていいだろう。
「声援、俺には聞こえましたよ」
杉浦戦では35分すぎにトップロープを飛び越えてのトペ・スイシーダを完璧に決めた。体力の消耗が激しい時間帯に飛び技を決めるヘビー級などそうはいない。ドロップキックの打点も終盤まで落ちない。コーナー上の杉浦を蹴り落とす場面もあった。キャリア16年目にして、潮崎は我々にあらためてそのポテンシャルの“底なし”ぶりを思い知らせたのだった。
チョップとラリアットを繰り出す右腕は、対戦相手から当然のように集中攻撃を食らう。テーピングで固められた腕は見るからに痛々しい。だが杉浦戦を前に腕の調子を聞かれた潮崎は「絶好調ですよ」と断言していた。どれだけ追い込まれようが、GHCヘビー級チャンピオンである以上は絶好調なのだ、と。
中嶋戦の後には、リング上からファンに向かって「声援をありがとう」と語りかけた。現状、客席での声を出しての応援はNGだ。それでも「声援をありがとう」なのだった。インタビュースペースで彼は言った。
「あったでしょ、声援。俺には聞こえましたよ」
無観客試合が始まった頃から、潮崎は「I am NOAH」とともに「We are NOAH」というフレーズも使うようになった。“ステイホーム”中でも、会場で声が出せなくても我々は一つだというメッセージ。潮崎はあらゆる面で頼もしいチャンピオンになった。
1年を通して、1人の選手がここまで輝きを放つことは珍しいのではないか。〈2020年の潮崎豪〉は彼のあるべき姿そのものだったし、“名門復興”の象徴だった。単に年間MVPといった話ではなく、潮崎のキャリア、ノアの歴史においても最も重要な年の一つが2020年だった。