濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“三沢光晴カラー”を身にまとい…ノア・潮崎豪、“もどかしい存在”からGHC6度防衛「名門復興」の象徴に
posted2020/12/13 11:02
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
プロレスリング・ノア
2020年、プロレスリング・ノアの潮崎豪は1月4日にGHCヘビー級王座を奪取し、それから1年間で6度の防衛に成功した。
年間7回のタイトルマッチを通して、潮崎はノアの観客がこうあってほしいと願ってきた彼の姿を体現し続けた。すなわち、ノアの歴史と“イズム”を背負って立つ姿だ。
かつての潮崎は、ファンにとってどこかもどかしい存在だった。「期待に応えてくれない」というのは見る側のわがままではあるのだが、どうしてもそう感じてしまう部分があった。
彼は三沢光晴の“最後のタッグパートナー”だった。三沢が亡くなった、その日の試合でタッグを組んでいたのだ。2009年6月13日のことだ。そしてその翌日、GHCヘビー級王座決定戦に勝ち初戴冠を果たす。当時の潮崎は上り調子の新鋭だった。「三沢なきノアの未来を背負うのはこの男しかいない」と多くの人間が思った。
その後もトップ選手として活躍した潮崎だが、大黒柱を失ったノアの人気は下降線を辿る。中心選手たちが退団し、全日本プロレスに移籍するという“事件”もあった。その選手たちの中に潮崎もいた。
2016年にノアに復帰しGHC戴冠、再入団も果たした潮崎だが、やはり“出戻り”のイメージはつきまとう。団体自体の経営体制も安定しなかった。
「ノアはお前だ」鈴木秀樹の言葉はファンにも響いた
潮目が変わり始めたのは2019年だ。広告代理店リデットエンターテインメントが親会社となり、プロモーションが一気に強化された。その翌年、つまり今年はサイバーエージェント傘下に。これによりABEMAでの中継が始まり、視聴環境が劇的によくなった。
潮崎のキャリアも上向きになっていく。昨年、中嶋勝彦との同期タッグ『AXIZ』でタッグベルトを巻くと“ノアのレスラー”としての存在感がグッと増した。“外敵”である鈴木秀樹とのシングルマッチ、30分フルタイムドローの熱戦もインパクトがあった。鈴木はビル・ロビンソンの愛弟子。ロジカルなレスリングで攻め込まれた潮崎だが、チョップとラリアットという“プロレス技”で真っ向から対抗する姿に凄味を感じた。
鈴木は潮崎に「ノアはお前だ」と言った。試合の中でタフさを見せるのがノアのプロレスであり、それを体現しているのは潮崎豪だ、と。“敵”の発言だったが、これはノアファンにも響いた。