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プロ野球“育成枠”56人が自由契約に…スカウトの本音は「周東も千賀も奇跡。育成は“確率”が低すぎる」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2020/12/09 17:30
2017年、育成選手ドラフト2位でソフトバンク入りした周東佑京。今年シーズン50盗塁を達成し盗塁王に
「でも、球団から、今年は育成でこれだけ獲ります……と言われれば、わかりましたと。それが、我々の仕事ですから。ただ、正直、全く確信はありませんね。足だけなら抜群に速いとか、そういう選手が、プロで働けるわけがないんです。周東(ソフトバンク)がいるじゃないかって、私は周東なんか奇跡だと思ってますから。言われますよ、時々、球団からも。なんで周東が獲れなかった?ってね。あれは奇跡なんですって答えることにしてます。奇跡だと考えるのが、私の中で、いちばん説明がつくんです」
育成は二軍の二軍みたいに……
周東佑京も、甲斐拓也も、千賀滉大だって、みんな「奇跡」だという。
「だって、あの3人の陰に、どれだけの日の当たらない選手がいるか。ソフトバンクだけじゃないですけどね、どこでもそうです。確率が低すぎる。みんな、もっと自分自身の野球人生を大事にしてほしいです……そんなこと言いながら、来年も我々は育成探して、獲るんですよ」
「入団してしまえば、スタートラインは一緒だと言う人がいますけど、現状は決してそうではない。“二軍”と”三軍”という差もありますし、三軍という組織がきちっとしてない球団だと、すごく曖昧な存在感になってくる。実戦で育成選手を育てるメカニズムを持っていない球団の場合は、二軍の二軍みたいなことになってしまう。そういうこともあるんだということを理解した上で、それでも育成でいいのか、それとも別の選択肢を検討するのか……選手と選手のまわりの人たちは、そこのところを慎重に考えていただきたいんです」
『保留者名簿から外れた132人』。
自由契約になった選手たちのリストが掲載された同じ日の紙面には、この秋のドラフトで指名された選手たちの「仮契約」の記事が掲げられていた。
何年か前には、そちらのほうの紙面を華やかに飾った選手たちが、今日は「自由契約選手」として、同じ紙面にその名が載っている。
実力が伴わなくなれば、関係を絶たれるのが当たり前の「契約社会」ではあるが、その時、本人の中に、十分な「納得」が在るのか、どうなのか。
そんなはずじゃなかったのに……悔恨の終止符を打たねばならない状況にならないために、「プロ野球って、本当のところ、どうか?」――そこのところをしっかりと押さえておくことが、プロに進もうとする者とその周囲の人たちの「義務」、いや、義務という言葉では強すぎるとしたら「準備」。その準備はできているだろうか。
秋の終わりの「野球」が入れ替わる時期に、そんなことを思っている。