Number ExBACK NUMBER
山井→岩瀬、13年前“消えた完全試合”の夜 日ハム側の証言「完敗したのに、なぜかどんちゃん騒ぎだった」
posted2020/12/07 17:02
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
BUNGEISHUNJU
中日が53年ぶりの日本一を目前にした9回、パーフェクトピッチングの山井に代えて、岩瀬――。あの前代未聞の継投策を、敗れた日本ハムはどう見ていたのか。当時の選手、コーチが回想する。(全2回の後編/前編へ)
この試合、自分の出番はなさそうだ……。田中幸雄はシリーズ第5戦の戦況を見つめながら、脱力していくのを感じていた。
プロ22年目、39歳、ミスター日ハムと言われる男は、代打屋としてベンチにいた。
右投手の山井が8回までパーフェクトの快投を演じていた。現実的に右打者の自分が打席に立つことは想像できなかった。いつものようにイニングの合間にスイングをして、体は温めていたものの、最終回を迎える頃には心のスイッチを切りかけていた。
だから、9回表のマウンドに左腕の岩瀬が上がった時には我が目を疑った。ただ、その事実を確認した後は不思議と腑に落ちた。
《パーフェクトの投手を代えるなんて考えもしませんでした。だけど、後から、そうだ相手は落合さんなんだ、と思いました》
「ホームランバッターが先頭にいたら、相手は嫌だろう?」
田中は日本ハムにおいて落合の野球観に触れた数少ない1人だった。1997年、巨人を退団して日本ハムにやってきた43歳の落合は噂に違わぬ個人主義者に見えた。
《キャンプでも少しグラウンドに出てきて、あとはフイッとどこかに消える。ひとりエアテントでバッティングしているんです》
だが、同じグラウンドで戦ってみると、それが先入観であったことがわかった。田中はシーズン中、落合から食事に誘われた。