《やっぱり、僕なら山井投手続投なんです……。ひとりの野球人の人生を含めて、日本シリーズの記録に残りますから》

　前代未聞の投手交代を予期していた白井も、あのシーンをこう振り返る。

《野球は監督の決断が100％。だから自分に置き換えることはできないんですが、ただ……ヒルマンさんなら、山井を投げさせていたのでは、と思います》

　そして、落合の野球観に直に触れた田中でさえ、自らのそれとは切り離した。

《自分なら継投は考えません。ほとんどの人がそのままマウンドにいかせるでしょう。だからこそ、落合さんなんです》

　つまり落合の決断は落合だけのものだった。彼らが積み上げてきた野球観を否定するものではなく、後悔や未練を抱かせるものでもなかった。もし自分なら……と想像しても、誰も自らを落合に置き換えることはできない。敗者の心に傷を残さなかったのは、その圧倒的な隔絶ゆえだったのかもしれない。

（【前回を読む】ヒルマン「なぜ山井を代えるんだ…？」　13年前、あの“消えた完全試合”を敗者・日ハムはどう見ていた？）