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なぜ炭治郎はこんなに痛がるの…? 『鬼滅の刃』爆発的ヒットを支えた「理不尽のセルフ実況」とは
posted2020/12/04 11:02
text by
黒木貴啓(マンガナイト)Takahiro Kuroki
photograph by
©吾峠呼世晴/集英社
社会現象をもたらしている人気漫画『鬼滅の刃』。現在公開中の劇場版アニメ「無限列車編」の興行収入は275億円を突破し、日本歴代2位の記録的大ヒットを飛ばしている。
その原作コミックス最終23巻がついに発売された。
2016年2月に『週刊少年ジャンプ』で連載開始した本作は、2019年のTVアニメ化によって人気が爆発。コミックスのシリーズ累計発行部数は23巻をもって電子版含め1億2000万部を突破する。累計1億部を超えたジャンプ歴代のバトル漫画は『ドラゴンボール』、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ、『ONE PIECE』、『NARUTO-ナルト-』、『BLEACH』などで、わずか4年3カ月の連載期間でこれら人気作への仲間入りを果たすことになる。
異例だったのは数字だけではない。
格闘技などのスポーツでは、試合の様子や状況を第三者によって実況解説することが多いが、本作は主人公の炭治郎をはじめ、キャラクターがどれほど理不尽な状況に置かれているかモノローグ(心の声)やセリフとともに、キャラクター自らの状況を“実況・解説”してくれる特徴があった。特に他者からはわからない「体内の痛み」については、少年誌にしてはグロテスクと言っていいほど描写が細かい。
だが『鬼滅の刃』では、この“理不尽のセルフ実況”が物語に大きな「サスペンス」と「わかりやすさ」をもたらし、爆発的なヒットを支えた一要因となっている。
では、“理不尽のセルフ実況”とはなんなのか? この人気マンガの「異質な実況」の魅力を紹介したい。
「どのくらいヤバいのか」を自ら説明する“理不尽のセルフ実況”
しゃべる、しゃべる。『鬼滅の刃』のキャラクターたちは「なぜそうなのか」を、口頭でも脳内でも、とにかく論理的に実況解説してくれる。
1話目の冨岡義勇の名ゼリフ「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」の後に続く、5ページにわたる長回しではセリフ270字、モノローグ187字、原稿用紙1枚分使って「今の炭治郎はどうしてよくなかったのか、俺があえてこう厳しいことを言う理由」を解説。あまりの説得力、ロジカルっぷりに炭治郎はぐうの音も出なかった。
なかでも“どれだけ今自分がしんどいか”の実況解説が、戦闘中に心の声で生々しく展開されるのは、とにかく新鮮だった。