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野村克也から甲斐拓也への手紙「君はいい名前をしているな」 ホークスの歴史つなぐ超一流の名脇役
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byNaoya Sanuki
posted2020/12/01 11:03
「ホークスの19番」、甲斐拓也は日本一を成し遂げたソフトバンクの名脇役だ
「甲斐に賞がなかったのが残念だよね」
「甲斐に賞がなかったのが残念だよね。よくリードしていたし、ホームランも2本打った。捕手ってのはなかなか褒められないんだよね。最近、やっと新聞なんかでも褒められるようになったけど」
王貞治球団会長が日本一決定直後に称えたのが甲斐だった。打っては2本塁打。それ以上に巨人打線を4試合で4得点に封じ込めた。チーム打率.132、16安打はいずれもシリーズワースト記録。とりわけ「ターゲット」に定めた4番の岡本和真には13打数1安打、打率.077とまったく仕事をさせなかった。
甲斐だけでなく、チーム関係者の何人かが口にしていた「昨年からのつながり」とは、同じくスイープした昨年の日本シリーズで坂本勇人に照準を合わせ、やはり13打数1安打に封じ込めた。厳しく内角球で攻めた残像が、1年後もどこかにあるのではないかという意味の「つながり」。そこで坂本と丸佳浩の間に座る岡本を今シリーズのターゲットに決めたということだ。
もちろん攻めきったソフトバンク投手の高い能力があってのことだが、始まる前にバッテリーが入念な打ち合わせをし、意思統一されていたのは間違いない。
野村氏は甲斐の「ホークスの19番」を喜んだ
さぞや草葉の陰からお喜びのことだろう。筆者が直接聞くことはできなかったが、関係者によると甲斐が「ホークスの19番」をつけたことに、生前の野村氏は非常にうれしそうだったという。球界ではすっかり投手の番号(11球団は投手)だが、野村氏にとっては愛着のある捕手の番号。ダイエーになり、ソフトバンクとなっても「ホークスの19番」は特別だった。
著書の『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)には、甲斐への手紙も収められている。そこにはテスト生から這い上がった自らと育成選手上がりの甲斐を重ね、母子家庭育ちという家庭環境にも共通項を見いだしている。雑誌の対談などで顔を合わせたときに「野村さんの著書を読んで勉強させていただいています」とあいさつされたのもすごくうれしかったようだ。