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張本智和17歳、フォーム大改造で得た“新たな武器” 歴史に名を刻むためのキャリア戦略とは
text by
織部隆宏Takahiro Oribe
photograph byGetty Images
posted2020/11/26 11:03
11月に中国で行われたワールドカップで3位に入賞した張本
もう1つ大きな武器も手に入れた
また、この新しいフォームの習得により、もう1つ大きな武器も手に入れた。
それは中国選手をもノータッチで打ち抜く横回転(シュート)のかかったドライブだ。
これまで張本のバックハンドストレートは、タイミングが早く台のコーナーへの最短距離を直線的に突き抜けていくものだった。ところが肘を低くして打つ新フォームは、右利き選手のフォアサイドへ曲がって逃げていくシュート回転がかけやすく、「速くて取れない」ボールに加え、「曲がって届かない」ボールも使えるようになったのだ。
前述のワールドカップ準決勝でも、馬龍のフォア側を張本のバックハンドが何本もノータッチで抜けていった。
現段階はまだ“未完の大器”
先に張本のフォアハンドのフォームに問題点があったと指摘したが、意味もなく放置されていたわけではないことを補足したい。
世界の頂点へと上り詰めようとするならば、チャンスボールを一発で決めるだけのパワーが必要になる。今回ワールドカップで敗れた馬龍をはじめ、世界の頂点に君臨する選手にはそれがある。そして勝負の場面でその一撃を繰り出せるようにするには、プレッシャーのかかる場面でラケットを振り切る経験が必要になる。
張本は天賦の才を持ったが故に、若くして世界の舞台での勝利を期待される立場となった。中間的なフォアハンドを早くから覚えれば、確実に勝てる手を選択する場面が増え、“世界を獲る”という夢の実現に必要な成長機会を失いかねない。
2020年、コロナ禍8カ月でのフォーム改造は「世界一の選手となり、歴史に名を刻む」ための、強い意志を持ったキャリア戦略だったと考えられる。
あまりの強さゆえ既に大成したような錯覚を人に与えるが、現段階の彼は未完の大器だ。
期待と敬意を込め、敢えて申し上げたい。「張本智和は成熟へ向けての一歩を踏み出したばかりだ」と。