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秋のマスターズ、“無表情の男”が溢れる涙で「しゃべれない…」世界1位ダスティン・ジョンソン初制覇
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byGetty Images
posted2020/11/16 17:01
異例尽くしのマスターズを制した36歳ダスティン・ジョンソン。日本から出場した松山英樹は通算8アンダーの13位タイ、今平周吾は通算イーブンパーの44位タイに終わった
マスターズへの特別な思い入れとは?
マスターズは「幼いころから勝利を目指してきた大会だ」とジョンソンは語ったが、彼にはマスターズへの特別な思い入れが、それ以外にもあった。
3年前の春、ジョンソンは2月のジェネシスオープンを皮切りに出場3試合すべてで勝利を挙げた上でオーガスタ・ナショナルにやってきて、「今は僕のキャリアで最高の状態だ」と勝利への自信を見せていた。しかし、開幕前日に宿舎にしていた民家の階段から転落して腰を強打。初日のティオフ直前に泣く泣く棄権した苦い思い出があった。
その翌年、2018年のマスターズでは10位タイ、2019年は2位タイ。なかなかリベンジはならなかった。
だが、今年はコロナ禍で米ツアーが再開されるやいなや、トラベラーズ選手権で勝利を挙げ、全米プロではモリカワに惜敗したものの、その後のプレーオフ・シリーズ3試合では優勝、2位、優勝という驚異的な成績を上げ、年間王者に輝いたばかりだった。
あの2017年に勝るとも劣らない「最高の状態」でオーガスタ入りし、2位に4打差の単独首位で最終日を迎えたジョンソン。しかし、深く熱い想いを抱いてグリーンジャケットににじり寄っていたからこそ、彼の最終ラウンドは大きな試練となった。
「どんなときもパーを追いかけた」
快調に滑り出したオーストラリアのキャメロン・スミスや韓国のイム・ソンジュが若さも手伝っていきなり勢いづいたのに対し、百戦錬磨のジョンソンのゴルフには硬さが見られ、4番、5番で連続ボギー。スタート前の4打の差は2打へ、1打へと縮まっていった。
だが、ピンそばにピタリと付けた6番(パー3)でバーディーを奪うと、右ラフにつかまった7番はピンチをパーで切り抜け、8番(パー5)は飛距離を活かして2オン2パットでバーディー奪取。冷静で着実なプレーぶりで一気に流れを好転させたこの3ホールがジョンソンの勝利への助走となった。
後半は、広げた差を失わないよう、「どんなときもパーを追いかけた」という安全第一の姿勢が、逆に2位との差を広げることへつながっていった。13番からの3連続バーディーがダメ押しとなり、2位に5打差の通算20アンダーで堂々の勝利。
キャリア最高の状態で臨んだリベンジ
10度目のマスターズ。5度目の54ホール・リーダー。そして「キャリアで最高の状態」で乗り込んだ2度目のマスターズ。その1度目は戦わずしてオーガスタを去ることになったが、2度目の今回は淡々黙々と彼らしい戦い方で、見事なリベンジを果たした。
寡黙なジョンソンが初めて見せた激しいエモーション。思わず溢れ出した彼の涙は、うれし涙というより、雪辱の涙だった。