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「お前向いてねえよ!」コーチの父親とケンカも…陸上界を震わす153cmの女王・田中希実「5000m分割」の発想法 

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林田順子

林田順子Junko Hayashida

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photograph byTakeshi Nishimoto

posted2020/11/04 17:00

「お前向いてねえよ!」コーチの父親とケンカも…陸上界を震わす153cmの女王・田中希実「5000m分割」の発想法<Number Web> photograph by Takeshi Nishimoto

今季、1500mと3000mの日本記録を更新した田中希実。12月の日本選手権では5000mで五輪代表切符を狙う。

 実は中学1年時の田中の100mのタイムはなんと18秒。決して足が速いとは言えなかった。

「ただ、距離が伸びても、全速力に近い形で、ず~っと同じペースを刻むことができたんです」

 その能力を磨き続け、中学2年の時には全日本中学陸上の1500mで4位に。中学3年の時には100m18秒のペースを刻み続け、1500mで4分25秒をマークし、優勝に輝いた。

「日本選手権の800mも同じです。スタートで出遅れたのではなく、ただ自分のペースを刻んだら、先頭に追いついたという話。今は100mのタイムが15秒ですから、刻んでいったら2分ジャスト。結局無理でしたが、あの日本選手権でも2分2秒ぐらいを狙っていました。そういうイメージで行こうと話していたんです」

 高校でも、インターハイで3年連続入賞など活躍を続けたが、強豪校や実業団には進まず、同志社大学に進学。豊田自動織機トラッククラブに籍を置くが、基本は学業が優先。そのためポイント練習などは週末のみ。平日の練習は朝と午後にそれぞれ約1時間だけだ。

「でも練習はだらだらやっても仕方がない。気持ちの入る時間、本数、種類だけに絞って練習をしていて。結果的には中身が濃くなりました」

「このままだと東京五輪は“思い出作り”」

 東京オリンピックの5000mの参加標準記録を突破している田中は、今、世界を相手にどう戦うべきか、戦略を練っている。

 2019年の世界陸上ドーハで、田中は5000mに出場して決勝に進出。当時、日本歴代2位となる記録をマークしたが、結果は14位だった。

「このまま同じような状態で東京オリンピックに出たとしても、思い出作りに終わってしまうんですよ。15分切りとかも言われますけど、切ったからってどうなるの?って話です。15分切るのが目的だったら、国内の記録会でやりなよって僕は思うんです。

 オリンピックに出る以上はやっぱり最後までしっかり勝負の場に残らないといけない。5000mの中で自分をどう表現するのか、どういう存在感を残すかが大事。僕は記録ではなくて、記憶に残る選手にしたいんです。そのためには、決勝のラスト1周まで残っていることが大事。ラスト1周、『わ、日本人残ってるよ!』というワクワク感。その結果、最後に敗れても、入賞しなくても、ボロボロになってもいいんですよ。

 新谷(仁美)さんも、そうだと思うんですけど、オリンピックに出ることを目指しているのか、出てどうしたいかを目指しているのかでは、取り組む姿勢が全然変わってくる。良くも悪くも今までの日本人は『オリンピックに出ること』が全てになっていたところがあったし、指導者も出ることを優先した練習のプランや戦略を練っていた。だからいざ日本代表としてレースに出ても、何もできずに終わってしまっていた。新谷さんのコーチを務める横田(真人)さんも、出てどうしたいかをイメージしながらメニューを組み立てて、動き出してると思いますよ」

 健智氏が新谷の名前を出したのには、理由がある。

【次ページ】 やっぱり甘いわ、って思い切り殴られたような感じ

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