指名はドラフト開始から2時間

　結局、井上の指名が確定したのはドラフト会議が始まってから２時間が過ぎたころだった。微動だにせず、指名を待つ井上はどんな気持ちだったのだろうか。

「あのときは、もしかしたら『今年はかからないんじゃないかな』と思ったりしてました」（井上）

　2019年ドラフトは佐々木朗希（大船渡）や奥川恭伸（星稜）を筆頭に、実力のある高校生が揃っていた。その同級生たちが上位で次々と名前を呼ばれていく。

「甲子園で見た選手や実際に名前を知っている選手が呼ばれると『自分は？』って、その度にちょっと不安になったりしてましたね。そう考えると、今こうしてプロ野球選手になって練習できているのは、改めて幸せなことだなって思います」

　ドラフト当日の会見で、日大三高の小倉全由監督はこう語っていた。

「正直、『プロに行きたい』と本人から聞いたときは不安がありました。ヒジを痛めたことがあり、私があまりにも大事にし過ぎたために、3年生のときの登板イニング数が少なかった。6位で指名していただいて、ありがたいことですが、もしかしたら私が臆病になって、井上を使いきれなかったことで、このように最後まで冷や冷やする指名になったのではないかと思っています」

日大三・小倉全由監督　©︎Hideki Sugiyama

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「プロ1本で行きます」

　井上は2年生の春、夏に甲子園に出場したあと、ひじを痛め、リハビリに長い時間を費やした。最後の夏も、他の投手が先発を務め、井上は短いイニングでの登板に留まっていた。そして結果的には西東京大会ベスト8という成績で高校野球を終えた。

　小倉監督の様子からも、本来ならもっと上位の指名でもおかしくない逸材だとわかった。小倉監督は続けた。

「でも6位というのは、本人が『ここから頑張っていこう』と思える順位だったのではないかと思います。最初、プロに行きたいと相談されたときには故障のこともあり、実は心配したんですよ。『本当にプロ1本でいいのか？』と聞きました。でも本人は『プロ1本で行きます』と言う。『じゃあ、志望届を出して、あとは待とう』『そして、どんな結果でもしっかり受け止めよう』と話をしました」

　井上は振り返る。

「小さいころからプロを目指していたので、行けるチャンスがあるのであれば、絶対に行きたいと思っていました。とにかく一日も早くプロの世界で活躍したいと思っていたので迷いはなかったです」

2年夏の甲子園は吉田輝星擁する金足農業に破れ、準決勝敗退。井上にとって最後の甲子園のマウンドとなった　©︎Hideki Sugiyama

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