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精密機器ジョコビッチがシステムエラー 全仏V13ナダルの思考法「疑念は人生の一部だ」
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2020/10/15 11:04
9月開催になっても、ローランギャロスの主役はやはりラファエル・ナダルだった
「疑念は人生の一部だ」
大会前に抱いた不安は、きれいさっぱり押し流されていたのだろう。ナダルはこう話している。
「疑念は人生の一部だ。僕はいつも同じことを言うのだけど、私にとって疑念とは、自分のことを買いかぶりすぎないという点で、よいことだと思っている」
いたずらに不安を肥大化させない。そして、不安さえ、それを自分への戒めとする。こんなマインドセットが前人未踏の全仏V13を可能にしたのだ。
ナダルは難コンディションを乗り越えたことを喜んだ。
「直面するすべての状況を前向きにとらえることができた。寒さでボールのフィーリングが良くないこともあったけれど、すべての課題を受け入れようと努めた。毎日、覚悟を持って取り組み、目標に向けて進んだ」
〈今いる場所から始め、持てるものを使い、できることをしなさい〉。黒人テニス選手の先駆者で、全米オープンのメインスタジアムにその名をとどめるアーサー・アッシュのこの金言を実践したのが、今大会のナダルだった。
不自由な生活を試合には持ち込まず
困難な状況は寒さやボールの違いだけではなかった。この全仏はまさにコロナ下で開催された。選手はホテルに隔離され、不自由な生活を強いられたが、ナダルは「コートの外でのルーティンは、コート上で起こることに大きな影響を与えない」とストレスを試合に持ち込まなかった。
観客数は1日1000人までに制限された。ナダルは優勝は「超ハッピー」とした上で、こう話した。
「いつものように満員の観客、素晴らしい雰囲気を楽しむことはできなかった。優勝したからといって僕の考えが変わるわけではない。まだまだ悲しい状況なんだ。練習ができること、スポーツができること、ツアーができることは幸運だ。困難な状況での開催に多大な努力をしてくれた全員に感謝してもしきれない。でも、僕は世界の状況がいかに厳しいものであるかを忘れてはいない。早く状況が改善されることを心から願う」
多くの困難を乗り越えたナダルは、世界がパンデミックと闘ったこの年に最もふさわしいチャンピオンだった。