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精密機器ジョコビッチがシステムエラー 全仏V13ナダルの思考法「疑念は人生の一部だ」
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2020/10/15 11:04
9月開催になっても、ローランギャロスの主役はやはりラファエル・ナダルだった
「とても、とても厳しいコンディション」
「とても、とても厳しいコンディションだ。天気はすごく、すごく寒い。これは誰にとっても難しい。屋外で試合をするにはちょっと極端な環境だと思う。自分が全仏でプレーした中で最も難しいコンディションではないか。いつもと異なる要素が多いからだ。ボールも全く違う。遅くて重いんだ。しかも、大会への準備もいつもより不足していた」
ただし、危惧はあくまでも危惧に過ぎない。ナダルはこう言葉を継いだ。
「でも僕は、戦うために、そして可能な限り最高のインテンシティ(強度)でプレーするために、自分自身にチャンスを与えるために、ここにいる。このことが一番の目標となる。やってみよう。1日1日やることだ。このローランギャロスのことはよく知っている。我慢強く、前向きに、毎日、ポジティブな空気をつくっていきたい」
まさしく有言実行だった。開幕すると、どの試合も最高強度でプレーした。最初の4試合をすべてストレート勝ち。手強い相手と当たった準々決勝、準決勝はやや苦しんだが、最後に力の差を見せた。
決勝でジョコはエラーの山を築いた
大方の予想通り、決勝の相手はジョコビッチだった。全米では失格負けの失態を見せたが、今季、最後まで戦った試合ではいまだ無敗。そして、ジョコビッチにはすべての四大大会に複数回優勝する「ダブル・グランドスラム」達成が懸かっていた。ナダル、ロジャー・フェデラーと「史上最強」の称号を争うジョコビッチは近年、とりわけ記録に貪欲であり、是が非でも手にしたい全仏2度目の栄冠だったはずだ。
ところが、ジョコビッチは立ち上がりからエラーの山を築く。アンフォーストエラーは第1セットから順に13、17、22で計52本。対するナダルは3セット計14本と、ジョコビッチの1セット平均のエラー数よりさらに少ない数字だった。
この試合が奇妙だったのは、ジョコビッチがこれまでに見せたことがないくらい混乱し、焦っていたからだ。