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シャラポワの自伝が全方位に挑発的!
「妖精」とは程遠いエゴと攻撃性。
posted2018/06/29 10:45
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
AFLO
テニス選手の自伝は、例外なく面白い。
全員が例外なく「成り上がり」だからだ。
それでも、『マリア・シャラポワ自伝』には唖然とし、圧倒された。成り上がりのストーリーが、それこそハンパない。
これまでも、シャラポワを理解するためのキーワードはたくさんあった。
チェルノブイリ。
ナブラチロワに見いだされ、6歳でアメリカへ。
そしてトッププレーヤーを輩出する「ニック・ボロテリー・アカデミー」で訓練を受け、プロの世界へと入り、17歳でウィンブルドンで優勝する。
しかし、単純化してはならないことをこの自伝は教えてくれる。背景には様々な偶然があって物語を織りなし、成功の根幹には、シャラポワの尋常ならざる集中力があったことが分かる。
空回っても止まらない狂おしいほどの情熱。
この自伝でもっともページが割かれているのは、フロリダ時代の話である。
シャラポワを世界トップの選手に育てるのに欠かせなかったのは、父ユーリの存在だ。
自分の娘に天賦の才があると信じ、モスクワのレッスンでマルチナ・ナブラチロワに見いだされると、当時は入手が極めて困難だったアメリカ行きのビザを取得する。
しかし、フロリダに到着した時彼には700ドルしかなく、しかも英語が話せなかった。
それでも前に進むしかないユーリは、娘をテニスアカデミーに強引に押し込むが、自分は低賃金で家賃を払うのもやっとの状態。それにつけこんで、「奴隷契約」を押し付けようとするアカデミーの経営者が登場するなど、とても21世紀の話とは思えないストーリーが展開する。
父ユーリは、単に娘をアカデミーに通わせるだけでなく、テニスの専門書を読み漁り、コーチの人選など、娘に必要なことに考えを巡らせる。
狂おしいほどの情熱は分かるのだが、どこかで空回りし、それが娘にマイナスに働いていたこともあっただろうと想像がつく。
父娘は紆余曲折の末、最終的に「ニック・ボロテリー・テニス・アカデミー」に落ちつくのだが、ここで見逃せないのが、テニスアカデミーの実態である。