精密機器ジョコビッチがシステムエラー　全仏V13ナダルの思考法「疑念は人生の一部だ」

　精密機器のノバク・ジョコビッチが、システムエラーを起こし、混乱していた。立ち上がりの2セットをラファエル・ナダルが6－0、6－2で連取。見ている我々もまた困惑した。全仏オープン男子シングルス決勝は、予想もしない展開になった。

　大会最多12個のタイトルを持つナダルだったが、大会前には黄信号が点っていると見る向きもあった。

　コロナ禍で4カ月遅れの開催である。秋の欧州の寒さと不順な天候でコートは湿り、ボールはいつもより跳ねなくなった。トップスピンのボールを高く弾ませ、相手のラケットをはじく――実際にはじくわけではないが、生き物のように飛び上がるボールに相手はしばしば芯を外し、ボールのコントロールに難渋する。

　このスピンボールがナダルの戦略のベースだ。ところが、湿った赤土に、低温で硬く締まったボールという条件下では、弾みが低くなり、下手をすれば胸の高さのストライクゾーンに収まってしまう。

　しかも、今年から採用された公式球は選手には「重い」と不評で、これもナダルに不利な要素だった。重いボールは、どちらかと言えば回転量の少ないフラット系の打法に有利とされ、ナダルなどトップスピナーには好まれない。

低温多湿、新公式球、調整不足の三重苦

　さらに準備不足の懸念もあった。

　いくつかクレーコートの前哨戦を経て全仏に臨むのが通例だったが、コロナ禍で日程が大きく狂い、ナダルの前哨戦への出場はローマの1大会のみ、しかもここではディエゴ・シュワルツマンに準々決勝で完敗を喫していた。

　端的にいえば、低温多湿、新しい公式球、調整不足の三重苦だった。実際、開幕前のナダルはプレー環境への危惧を口にしていた。

【次ページ】　「とても、とても厳しいコンディション」