フランス・フットボール通信BACK NUMBER
右耳は全聾、左耳健常者の20%以下……「お前には無理」と言われた青年が“プロGK”になるまで
text by
ニコラ・クゴNicolas Cougot
photograph byL’Équipe
posted2020/10/08 06:00
29歳になったばかりのアルマダは、昨年、プロのGKとして名門クラブと戦うという人生の目的を達成した
「でもしばらくたつとバレて、両親もようやく認めてくれた。天にも昇るような気持だった。僕にとってサッカーはすべてだ。人それぞれ好きなことがあるけど、僕はボールに触れているときが一番楽しい。ゴール前でダイビングして草の匂いを嗅ぐ。ボールを追いかけて泥だらけになる。そうした小さなことに僕は喜びを感じる。人生を幸福にするのはそんなディテールの数々だと僕は信じている」
当初はクラブ内でも、味方とコミュニケーションがとれない選手がプロを目指すのは無理だと言われた。だが、元々フォワードであったため足元の技術がしっかりしていて空中戦にも強い。DFラインとの連携もそつなくこなしたアルマダはすぐに頭角を現し、そのプレーはパラグアイ4部リーグに所属するデポルティボ・ピノーザの注目を浴びた。アルマダは15歳にしてクラブの一員となり、パラグアイに耳の不自由なGKが誕生したのだった。
パラグアイ史上初、世界初のGKに
その後、アルマダは、3部に相当するプリメラBのフルジェンシオ・イェグロスにほどなく移籍した。さらにそこで彼はリーベル・プレイトから注目された。リーベルといってもブエノスアイレスの名門クラブではない。アスンシオンに本拠を置くパラグアイのクラブで、監督はパラグアイサッカー史上最年少で1部リーグを指揮したダニエル・ファラルだった。その攻撃的なプレー哲学からフェラールは、《グァルディオリタ=小さなグアルディオラの意》の異名をとっていた。
シンデレラストーリーはさらに続く。アルマダが加入した2018年には、リーベルは2部リーグに相当するインテルメディアに所属していた。この年のリーベルはファラルの攻撃サッカーが爆発し、16勝7分7敗という圧倒的な強さで4度目の2部リーグ優勝を果たした。1試合平均失点はおよそ0.5点。最優秀ディフェンスも獲得して優勝に花を添え、アルマダも献身的な守備で最優秀GKの評価を得た。彼にはまるでハンディキャップなど存在しないかのようだった。彼はついに自身の夢――1部リーグ昇格を果たしたのだった。
そしてそれはネルソン・バルデス(元ドルトムント)のいるセロ・ポルテーニョやオスカル・カルドソ(元ベンフィカのストライカー)のリベルタード、そして彼の心のクラブでありルケ・サンタクルス(元バイエルン)が所属するオリンピア・アスンシオンといった名門クラブとの対戦を意味していた。