炎の一筆入魂BACK NUMBER
カープ女子も推す“勝てる投手”森下暢仁は新人王も…「全然、意識してます」
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2020/09/29 11:00
9月19日のヤクルト戦に先発した森下暢仁。7回2失点の好投でチームの粘り勝ちに貢献した。
プロ1年目にしてチームを支える「勝てる投手」
「チームが勝ったことが一番。次につながればいいです」
1年目ながら、チームの勝敗を背負う覚悟ができている。
広島は、チーム防御率がリーグワースト2位という苦しい台所事情に加え、エース大瀬良大地もクリス・ジョンソンもいない。森下は開幕から登板した試合で100球に満たなかった試合が1度しかなく、責任投球回未到達も1度しかない。勝ち星に加え三振数もチームトップ。広島投手陣の柱を担っている。
登板した13試合でチームが敗れたのは4試合のみ。勝てる投手たるゆえんは、あの試合で示したような姿にある。広島のエース大瀬良大地や3連覇の礎を築いた黒田博樹氏も、マウンドでの姿でチームメートの士気を上げていた。
プロでは1年目の新人であり、チーム内では投手陣が練習で使う道具を運ぶ役割もある。ただ、グラウンドに立てば年齢は関係ない。投手の姿が鏡となって、野手を映し出す――。そんな気概を広島の背番号18の背中からは感じる。
同学年投手との対戦時には「負けたくない」
かつて広島で18を背負った前田健太(ツインズ)も、若かりし頃からそうだった。「投手には責任がある。だって、投手には“勝ち投手”、“負け投手”が付くけど、野手には“勝ち野手”も“負け野手”もないじゃないですか。それだけ投手は責任を背負っているということだと思う」。ときを経て同じ背番号を背負う森下にも、投手としての矜持を感じる。
さわやかなルックスでカープ女子の人気を集めるが、マウンドに立てば戦う男。内に秘めた闘争心をときに言葉にもしてくれる。新人王争いについて聞かれれば「全然、意識しています。取りたい気持ちはどんどん強くなっています」と応え、同学年投手との対戦時には「負けたくない」とはっきりと口にする。登板前後に無難なコメントに終始する先発投手も珍しくない中、森下は自分の言葉をしっかりと持っている。
いかにも投手らしい思考と言葉を持った右腕はチームメートだけでなく、見る者の心も動かす投手になっていくに違いない。シーズン終盤になっても浮上の兆しが見えない中で、背番号18が示す姿は、大きな希望の光となる。