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錦織圭の復活はゆっくりでいい 18歳の勢いに屈するも「5、6割」で見せた100点のプレー
posted2020/09/20 20:00
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph by
Getty Images
18歳当時、世界ランキング244位だった錦織圭がツアー初優勝を果たした頃を間近で見ていた人々は、今の筆者と同じような感覚を味わっていたのだろうか。
9月18日、クレーコートで行われたイタリア国際の2回戦で錦織に土をつけたのは、同国中部トスカーナ州カラーラで2002年に生まれた18歳のロレンツォ・ムゼッティ。昨年の全豪オープン・ジュニア覇者はまだ世界249位だが、将来性は明らかだった。
振り切ったスイングから豪快なフォアを放ち、片手バックを含めてストロークは深い。ミスしても引きずらない精神的なタフさがあり、左右に振られても俊足を生かして拾いまくる。1回戦では全豪、全仏、全米を制した経験があるスタン・ワウリンカをストレートで破っている。この時も錦織戦と同様、実績ある相手に一歩も引かない姿勢で挑み、「なぜか試合前から落ち着いていた」と豪胆な面を見せた。
ムゼッティの実力からすれば249位は……
単純に考えれば、元世界4位の錦織が無名の選手に敗れる「大番狂わせ」で、「格下にまさかの完敗」かもしれない。実際、そうした報道もなされた。しかし、ローマでの2試合をじっくりと観戦すれば、249位という数字がムゼッティの実力を示していないことは明白だった。ワウリンカも錦織も、試合だけを見れば力負けと言っていい。
もちろん、錦織の方が弱いと言っているのでは決してない。錦織は昨年10月に右肘を手術し、今年8月には新型コロナウイルス感染も発覚。今月初旬のツアー大会で約1年ぶりに復帰し、今回が復帰後の2大会目だった。ムゼッティ戦の後は自身の状態を「5割、6割」と表現している。万全でない中、成長著しい新鋭の勢いに屈したということだった。