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佐藤天彦と中村太地の未公開縁側トーク 藤井聡太の逆転は本当に“逆転”か?
posted2020/09/12 11:50
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Kazufumi Shimoyashiki
うだるように暑い8月の昼下がりだった。信号待ちしているだけで、どっと汗が噴き出す。道の向こうに見える風景が蜃気楼のように揺れていた。
だが、用意していた対談の会場に着くと、灼熱の外界とは切り離された空気と時間が流れていた。
そこは昭和30年に建てられた都内にある古い平屋の住宅だ。引き戸を開け放つと、広々とした庭の緑が目に涼しい。岩に染み入ってなお溢れ出してきそうな蝉の声が現実感を失わせ、どこか遠い昔にタイムスリップしたような感覚に陥る場所だった。
先に中村太地七段が姿を見せた。白いTシャツにセットアップのジャケパンスタイル。そうと知らなければ、スタートアップの創業者のような現代的な佇まいだ。
「アン・ドゥムルメステール」の黒のマスク
冷たい麦茶を飲みながら、もう1人の到着を待つ。対談の相手はファッションやクラシック音楽などに造詣が深い“貴族”佐藤天彦九段である。「一体、どんな格好で来るんでしょう」と中村がソワソワしながら待っていると、すぐに佐藤が現れた。
Tシャツに黒のセットアップ、手に入れたばかりだというお気に入りのブランド「アン・ドゥムルメステール」の黒のマスクを着けている。ごつめのシルバーのリングも含めて、こちらはロックミュージシャンといった趣だ。
さっそく縁側に将棋盤を用意して撮影を始める。
小さい頃によく将棋で遊んでいたいとこ同士が、久しぶりに田舎のおじいちゃんの家で再会して将棋を指している。まるでそんな風情の、いいショットが撮れた。
和気あいあいとした2人の雰囲気、蝉の声が響く夏の午後の空気感は、雑誌に掲載された写真を見ていただければよく伝わってくると思う(ちなみに撮影中は藤井二冠のタイトル戦を盤上に再現しながら研究もしてもらった。写真にはその盤面が一部写っているが、熱心な将棋ファンの方はどのタイトル戦の第何局かお分かりになるだろうか?)。