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2試合連続ゴールは「湘南だから」 31歳DF大岩一貴が常に謙虚でいられる理由
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/09/12 09:00
DFながら2試合連続ゴールと気を吐く大岩(中央)。なかなか勝利を掴めないチームの状況でも、前向きな言葉が目立った。
2試合連続弾「湘南だから取らせてもらえた」
大岩の覚悟が結果として表れたのが前述した2試合連続のゴールだった。J1第14節のヴィッセル神戸戦で挙げた移籍後初ゴールは、彼にとって大きな意義を持つものだった。
0-0で迎えた50分、自陣右サイドで相手からボールを奪うと、そのままドリブルで相手DFを2枚剥がして敵陣まで運んだ。3人目をかわしながら併走したFW石原直樹に横パスを預け、そのままスピードを落とすことなく前線へ駆け上がる。ボールが左サイドのMF松田天馬に渡ったことを確認すると、ファーサイドに流れてゴール前に飛び込む準備をした。MF金子大毅、DF石原広教へと繋がった瞬間、大岩は角度を斜めに変えてゴール前に走り込むと、石原広からのライナー性のクロスにダイビングヘッドで合わせ、ゴールネットへ突き刺した。流れるような湘南らしいカウンターだった。
「湘南に来たからこそ取れたゴールだし、湘南だからこそ取らせてもらえたゴールでした。湘南に来るまでは最終ラインから持ち出して攻め切るようなプレーはしなかったのですが、浮嶋(敏)監督からは常に『前が空いたら運べ』と言われていたし、カウンターの際はスピードを落とさずにどんどん湧き出て来るのが湘南スタイルだと日々の練習で感じていた。このシーンも奪った瞬間に前が空いていたので、『行ける』と思ったし、湘南スタイルが僕の背中を押してくれた」
続く第15節の大分トリニータ戦でも松田の左CKをドンピシャヘッドで合わせ、大きく勝利に近づく追加点となる2試合連続ゴールを叩き出した。
しかし、大岩の奮闘実らず、2試合ともにドロー決着。冒頭の言葉の通り、大岩はDFとしての危機感を募らせている。
「あの1年があってよかった」とはまだ言えない。
あの言葉には続きがあった。
「今ここでサッカーをやることで成長できていることは間違いないし、湘南スタイルをゴールで表現できたからこそ、もっと攻守において表現できるようになりたい。今はそれを純粋に追い求めています」
湘南スタイルの体現者になって勝ち点3に繋げる存在になる。まっすぐに前を見つめる彼に改めて「昨季の1年間の苦悩」を尋ねてみた。大岩はしばらく考え込んだ後、こう口を開いた。
「正直、昨季は不甲斐なさ過ぎて、まだ『あの1年があって良かった』とは思えないのが正直なところです。今でも思い出すと申し訳ない気持ちと、やっぱり自分を責めてしまう気持ちが出てしまう。今は湘南の選手になった以上、そこは考えずにただ1人の選手として挑戦し続け、監督の要求に応えてチームに貢献をする。それが僕なりの『もう一度、一から自分の手で築き上げる』という覚悟です。いい財産とか、いい思い出になったとか、そういうことが言えるのはもうちょっと先だと思うし、これからの自分次第だと思っています」
「いつか(2019年がプラスに)繋がったらいいですよね」
プロ9年目のリスタートは、彼にとって未来の景色をより彩るための重要な第一歩となっている。この言葉を発した時の笑顔がそれを物語っていた。