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2試合連続ゴールは「湘南だから」 31歳DF大岩一貴が常に謙虚でいられる理由 

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安藤隆人

安藤隆人Takahito Ando

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photograph byJ.LEAGUE

posted2020/09/12 09:00

2試合連続ゴールは「湘南だから」 31歳DF大岩一貴が常に謙虚でいられる理由<Number Web> photograph by J.LEAGUE

DFながら2試合連続ゴールと気を吐く大岩(中央)。なかなか勝利を掴めないチームの状況でも、前向きな言葉が目立った。

どんなチームでも自分をアジャストさせる

 2012年に中央大学からジェフユナイテッド千葉に加入した大岩は、在籍した4年間でJ2リーグ132試合に出場。'16年に仙台へ完全移籍すると、昨季までの4年間でJ1リーグ117試合に出場している。8年間で通算249試合の出場という輝かしい実績を誇る選手にもかかわらず、彼はいつ話をしても目立つことを嫌い、自己評価が低い。実績十分の選手が、なぜここまで謙虚でいられるのか。

「僕が目立たなくても目立つ選手は周りにいる。それに僕はどのクラブに加入する時も『大きな期待』を背負って迎え入れられているわけではないと思っています。どうしても欲しい存在というよりは、極端に言えば数合わせ、バックアッパーとしての位置付け。どの環境でも『自分が一番』ということはなかった。でも、逆に僕にとっては『余計な欲』を持つことなく、常にチャレンジャー精神をもってプレーできるので、それでいいと思っているんです」

 中京大中京高時代のチームの顔は学年が1つ下のFW伊藤翔(鹿島)。中央大では3年生からレギュラーを掴んだが、プロ生活をスタートさせたJ2千葉ではCB、サイドバックと複数のポジションをこなすなど、“便利屋”としての位置付けだった。

 それでも「J1でプレーをしたいという一心でした」とオファーをもらった仙台へ移籍。そこには確固たる流儀がある。

「これまで中京大中京、中央大、千葉、仙台、湘南とそれぞれの監督、チームのコンセプトに沿ってプレーすることは大切にしてきました。監督の言うことにきちんと耳を傾けて、自分をアジャストさせることが自分のサッカー選手としての核だと思っています」

キャプテン就任、右膝に抱えた痛み

 その思いを再確認する出来事があった。「正直、思い出したくない」と吐露するほど、苦しい1年間を過ごした昨季のことだ。

 '19年シーズン、大岩はプロになって初めて単独のキャプテンを任された。中央大時代にキャプテンを務め、プロ入り後も'17年に副キャプテン、'18年は3人の共同キャプテンを務めていたが、“単独”の重みはこれまで経験したものと違ったと話す。そして、その重荷を倍増させたのが、ずっと抱えていた右膝の痛みだった。

「'18年のシーズンからちょっと痛みが出ては、引くの繰り返しでした。昨季はその痛みがどんどん強くなっていったのですが、キャプテン、重要な3バックの真ん中を託され、監督やクラブからの期待の大きさも感じていた。だから弱音や言い訳はできなかった。でも、右膝を無意識のうちに庇ってしまい、右膝周辺の筋力もどんどん落ちて、左右の太さが違うくらいバランスが崩れてしまっていた。踏ん張りもきかないし、庇う癖ができて、重心やステップのバランスが崩れてしまった」

 周りの信頼を感じ、何より「一番自分に期待していた」シーズンだった。しかし、そんな思いとは裏腹に持ち味である守備力が出せなくなり、精神的に追い込まれた。

「シーズン当初は『プレーで引っ張りたい』と思っていたのに、そのプレーがまともにできないし、試合にも出られない。キャプテンとして、どう立ち振る舞えばいいのか見失っていた時期もあった。何をもってキャプテンなのか、ずっと『俺は一体、何をやっているんだ』と」

【次ページ】 長期離脱によって消えた「焦り」

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