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大坂なおみに思い出す伊達公子の“箪笥” とは「記憶から試合中に引き出して」全米準決勝へ
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byAFLO
posted2020/09/10 19:00
最後は、サービスキープのラブゲームで勝利を掴んだ大坂なおみ。
「伊達のテニスは整理箪笥である」
「たくさんの引き出しを持っているという言い方をするけど、引き出しは整理されていないと意味がない。いくらたくさんの引き出しを持っていても、開けてみなければ何が入っているかわからないのでは、欲しいものがすぐに出てこない」
それは、「伊達のテニスは整理箪笥である」という謎掛けのようなたとえ話から発展したのだが、実にわかりやすくおもしろいので、これまで原稿に何度使わせてもらったかわからない。
話の中には、整理簞笥との比較で「行李」という言葉も出てきた。最近では耳慣れないが、竹や籐でできた昔の物入れで、衣類を保管したり、旅行の際の荷物を運搬するために使われたものだ。必要なものは全てそこに入っている。しかし、仕切りも引き出しもなく、咄嗟に何か引っ張り出そうとするとぐちゃぐちゃになってしまう。そういう選手もいるという話だった。
大坂は、現在プロで活躍しているほとんどの選手が経験したジュニアのツアーには参戦せず、14歳の若さでプロのツアーに出場し始めた。厳しい世界でコツコツと溜めてきたテクニック、戦術、対戦相手についての知識がある。それらがごちゃごちゃ入っていた行李から、少々雑な箪笥へ、そして几帳面に整理された箪笥へと成長してきたとはいえないだろうか。
いよいよ準決勝。相手はまたもアメリカの選手で世界ランク41位のジェニファー・ブレイディ。これまで4回戦がグランドスラムの最高成績だった25歳だ。試合ごとにさまざまな側面から新たな強さを証明してきた22歳の元女王。次は何を見せてくれるのだろう。