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錦織圭「1年ぶりの試合にふさわしい」逆転負け 本人が明かす完全復活までの距離感。
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byAFLO
posted2020/09/09 20:00
復帰初戦は逆転負けとなってしまった錦織圭だが、全仏までの調整期間ととらえているはず。
1年ぶりの実戦と思えぬ完璧な組み立て
開始直前にパーカーを脱いだ錦織は、右腕にサポーターを着けていた。
復調の程度を確かめるための相手は、世界ランキング47位のミオミル・ケツマノビッチ。昨年3月に初めてトップ100入りし、着実に力を伸ばしているセルビア出身の21歳だが、2カ月前に骨折したという左手の包帯が痛々しく、こちらも万全ではないようだった。
気持ちの良い青空の下、試合が始まる。
標高が高く球が飛びやすい中、錦織は出だしこそショットがやや不安定だったが、すぐに修正した。第1ゲームから5ゲームを連取。バックのクロスで相手をくぎ付けにし、空いたスペースに正確なフォアのクロスを打ち抜く。
ベースラインから下がらず、早い展開から積極的に仕掛け、相手が十分な体勢をつくる時間を奪った。完璧に近い組み立ては、とても1年ぶりの実戦とは思えなかった。
ただ、その精度は長く続かない。徐々にミスが増え始め、第6ゲームから4ゲームを続けて落とす。それでも、5-4の第10ゲームは40-15と追い込まれてから丁寧なラリーで巻き返し、驚異的な守備力でも粘りながらのサービスブレークで何とかセットを先取した。
第2セット以降に隙を見せてしまったが
一気に勝負を決めたい第2セット。中盤まで競った展開になる中、先に隙を見せたのは錦織の方だった。
第7ゲームでサーブやショットのミスを重ね、最後はダブルフォールトで自滅。サーブは新コーチの下で改善を図っている技術の一つだが、この日、相手にブレークポイントを握られた場面で3度もダブルフォールトが出たのは反省点だった。久々の実戦という難しさを差し引いて考える必要があるとはいえ、本人も試合後に「(サーブは)課題の1つ」と口にしていた。
その後も流れを変えられないままセットを落とすと、最終セットは序盤で決め球のミスを重ねて後手に回り、相手をさらに勢いづかせてしまった。
試合勘を取り戻すには、試合を重ねることが何より大事。その意味でも初戦敗退は避けたいところだった。
ただ、何度も繰り返すがこれは1年ぶりの復帰戦。大会前に本人が覚悟していたように、苦戦は織り込み済み。むしろ、試合の序盤で見せた高い精度のショットや攻めの姿勢、軽快な動きは長く実戦から遠ざかっていたとは思えないほどで、完全復活までの距離感は、それほど大きくないのではと感じさせた。