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『バトルスタディーズ』の原点。
作者が語る、あの夏とPL学園。 

text by

村瀬秀信

村瀬秀信Hidenobu Murase

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2020/08/12 11:40

『バトルスタディーズ』の原点。作者が語る、あの夏とPL学園。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

『バトルスタディーズ』は暴露ではなく、なきぼくろ氏のPL学園への愛の結晶なのである。

OBの視線は「めっちゃ怖かった」。

 架空の強豪校DL学園を舞台にした野球マンガ『バトルスタディーズ』は、2014年に「Dモーニング」に読み切りが掲載されると好評を得て、翌2015年1月から連載スタートが決定した。しかし、連載開始当初の学校関係者・OBからの反応はあまりいいものではなかったという。

「OBや関係者の人たちの反応はすごく慎重でした。それも当然のことで、当時は野球部が休部する直前のタイミングで、読み切りの時点ではまだ校長兼監督が代わって継続する予定だったんですが、連載にGOサインが出た瞬間に、新しく部員を取らない方針が発表されたんです。そういうピリピリした時期にPL野球部を題材としたマンガを描きたいなんて言われたら、『オマエ、ナニ描くつもりやねん?』となりますよね。まだ現役の選手たちもいましたし、迷惑は絶対に掛けられんですからね。

 だから、連載が始まる前に、かなり上の先輩から、僕の時の監督だった藤原弘介さん(現・佐久長聖監督)など、とにかく挨拶に行って『暴露を描きたいわけじゃないんです』と訴えてきました。最初の1~2年はめっちゃ怖かったです。OB関係者みんながじっと静観しているのがわかりましたから。みんなPLのこと大事に思ってる人たちですからね。でも、いつまでもヘコヘコしながら耳あたりのいいことだけを描いていてもしょうがない。自分の中にある愛情を以て、パンッと出してPLを描いてみようと吹っ切ったんです」

松井稼頭央に言われた「ありがとうな」。

 ちょうど同じ頃、TV番組の収録でPL学園の大先輩である、清原和博、立浪和義、片岡篤史、橋本清、松井稼頭央らと一緒にゲスト出演することになった。なきぼくろからすれば神様のような先輩たちである。

「収録後、お茶を飲んでいる時に、松井稼頭央さんが僕の耳元で『ありがとうな。マンガに出してくれて。これからも頑張れよ』と言ってくれた。マンガに名前が出たってほんの1コマですよ。登場人物が『これは松井稼頭央さんに貰った皮手袋~』というそのシーンを覚えてくれはってて、感激しました。さらには立浪さんにも『思い切って描けよ』と言ってもらえたし、清原さんにも『いったれいったれ』って。ものすごく力になりました。その日のことがあってから、フッと楽になったような気がします」

 PL学園。今でも屈強なプロ野球OBが「何億円積まれても戻りたくない」「子供は絶対にPLに入れたくない」と、泣きそうな顔で回顧する野球部の生活。そこで何が行われているのか、監獄のような生活であり、奴隷のような上下関係、いじめにリンチに暴力事件と、そんなものがあるのではないかと、読者は出歯亀根性で覗いてみたくなる。

 だが、なきぼくろがマンガを通じて描きたいテーマはもっとずっと先にある。中学1年生の時に見た、あのPL対横浜。エース上重の笑顔であり、古畑の心の叫び。土壇場で同点タイムリーを放った大西がガッツポーズも作らずに一塁上で佇む姿。そんな憧れの人たちの棲む世界に自ら飛び込み体験したこと。

 強くてカッコよくて、大きすぎた3年生たちの背中。全国制覇どころか、出場停止ですべてが奪われ、野球すらできず、復帰後もあと一歩のところで敗れた。それでも、前を向き、自分たちの代では甲子園へ出場することが出来た。

【次ページ】 なきぼくろがPLで学び、伝えたいこと。

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