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『バトルスタディーズ』の原点。
作者が語る、あの夏とPL学園。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/08/12 11:40
『バトルスタディーズ』は暴露ではなく、なきぼくろ氏のPL学園への愛の結晶なのである。
病的なまでのPLオタクに。
それはもしかしたら、五厘刈りをはじめ上から抑えつけられるような野球に違和感を覚えていたなきぼくろが見つけた“子供が遊ぶように野球を楽しむ”理想郷だったのかもしれない。
この高校野球史上に残る名勝負は、敗れたPL学園が笑顔で、涙を流す横浜高校の勝利を讃えるシーンをなきぼくろの心に深く刻み込んだ。試合終了後、いてもたってもいられず、すぐに試合をビデオ録画していた友人の元へダッシュし、夜通し試合を見直した。
その翌日、昨日までやる気のなかったフニャフニャ少年は、別人のようにグラウンドに登場すると、全員に向かってこう宣言した。
「みんなでPLに行こう!」
もともと運動神経もよく、野球のポテンシャルがあったところに“PLに行って甲子園に出る”という魂の目的が刻印されたなきぼくろは、メキメキと力を付けていく。さらにバトルスタディーズの主人公、狩野笑太郎の原型ともいえる病的なPLオタクと化し、若人の夢は羽曳野の聖丘をめざし育まれていく。
伝説も悪い噂も、行って確かめるしかない。
「生き甲斐を見つけた……ということでしょうか。あれからPL×横浜のビデオを3本ほど擦り切れるまで見ました。あの試合みたいに、負けた勝ったとかなんもなく野球がやれる、こんな人らがいる場所へ行きたい。PLのことは何でも追っかけました。
下の代や、その下の代もパワプロで全選手つくって、バントやキャッチャーの仕草などもPLの選手のマネを叩きこんで、それをチーム全体に伝染させました。PLのスカウトの目に留まるためにはチームを強くして、1年生からレギュラーになることです。『俺たちの代で革命を起こそう』と決起し、上級生の試合にも「出してください」と直訴して、そこからレギュラーに定着しました。
もちろんPLのことを調べていると、それまで知らなかった、よからぬ噂もたくさん聞こえてくるんですよ。でも、ビデオの中の古畑さんや上重さんらのノビノビとした姿を見ているとやっぱり信じられへん。いろんなクエスチョンマークが出てきても、結局、自分で確かめに行くしかないと焦がれる思いは強くなっていました」