オリンピックPRESSBACK NUMBER
内村航平“鉄棒専念”で金メダル?
白井健三、萱和磨が抱く信頼感。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byKYODO
posted2020/08/08 11:30
2015年10月の世界選手権は男子団体総合で優勝。(前列左から)早坂尚人、萱和磨、白井健三、内村航平らのメンバーで、笑顔で表彰台に上がった。
「決断の裏には、誰よりも考えている航平さんが」
ナショナル合宿では2人が話している姿をしばしば見た。大会などがあまりない冬の間は、「しょっちゅう電話しています。1時間以上話すことも珍しくないですよ」(白井)と言っていた。
7月下旬に行なわれた男子ナショナル合宿の取材で、白井は、内村が「鉄棒に専念する」と表明したことを受け、どのように感じたかを聞かれ、このように言った。
「これまで、いろいろな決断をしている航平さんを目の前でたびたび見てきました。例えばこの技を入れるだとか、種目別ではこの技をやってみたいとか、そういう細かい相談です。
そして、その決断の裏には、誰よりも考えている航平さんが毎回いました。ですから、今回の大きな決断も、誰よりも航平さん自身が考えて、最終的に決めたものだと思います。
僕を初めとして、誰にも否定する権利はないと言いますか、本人が下した決断ですから、それが最善のものだと思っています」
鋼の意思を持つアスリートとして独り立ち。
白井は、自身が経験した5度の世界選手権と1度の五輪のすべてで、内村とともに戦ってきた。'15年4月に内村の母校でもある日本体育大学に進み、内村も指導を受けた畠田好章監督の教えで、徐々にオールラウンダーとしての取り組みを深めていった。
そして、リオ五輪の翌'17年には個人総合の選手として代表に選ばれるようになった。
内村が予選の最中に足を痛めて途中棄権した'17年のカナダ・モントリオール世界選手権では、フロアから去る内村にポンと肩を叩かれ、瞬間的に顔をゆがめた。無言の内村が右の手のひらで伝えたのはおそらく、「後は頼むぞ」というメッセージ。
白井は期待に応えた。大会中は見ていて分かるほど、日を追う毎に集中力と自信を増していき、個人総合で見事に銅メダルを獲得した。
スペシャリストとして揺るがぬ評価を得ていた選手が、オールラウンダーに転身してメダルまで獲ってしまうとは、並大抵の努力ではない。
しかも、個人総合の後に行なわれた種目別のゆかと跳馬では金メダルに輝いている。白井は内村の有言無言の薫陶を受け、オールラウンダーとスペシャリストとの両立を目指すという鋼の意思を持つアスリートとして独り立ちしていた。
その白井がきっぱりと言うのである。
「航平さんは僕にとって、どんな決断をしてもリスペクトしている選手です。僕としては、その決断を応援するだけと決めています。ですから素直に、鉄棒1本に絞ったことに関して、僕は応援したいと思っています」