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山小屋支援でベンチャーが存在感。
ヤマップ代表が語る登山の希望と不安。 

text by

千葉弓子

千葉弓子Yumiko Chiba

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photograph byYAMAP

posted2020/08/05 11:30

山小屋支援でベンチャーが存在感。ヤマップ代表が語る登山の希望と不安。<Number Web> photograph by YAMAP

登山者用のアプリを提供するヤマップの代表・春山慶彦さん。元編集者で2013年に起業した。

登山人口の4割が60代以上。

 上述したように、ヤマップが登山届の提出先になるなど、「安全」面でも登山者のインフラを目指しつつ、利益を上げるフェーズに入ったヤマップの未来は明るいように思える。だが春山さんには危惧していることがある。登山人口の縮小だ。

「『レジャー白書』によれば、登山人口約680万人のうち60代以上が約4割を占めています。つまり、10年後には登山者が激減する可能性があるわけです。減少を食い止めるには、今のうちから新しい登山者を増やす努力をしなければいけません」

 20歳の頃から登山を始め、雑誌『風の旅人』(ユーラシア旅行社)で編集の仕事をしていた春山さんがヤマップを起業したのも、こうした危機感からだった。

「日本社会の課題は、体を動かしていないことだと常々思っています。農業、漁業などの第一次産業で生計を立てている人は全国で約200万人しかいません。つまり、日本で暮らす大半の人は日常的に自然の中で体を動かしてない。登山・アウトドアを通して都市と自然を繋ぎ、自然の中で体を動かすことの楽しさ、素晴らしさを伝えたい。私たちがどういう風土に育まれ生きているのか。風土を知り経験する機会を、登山・アウトドアは提供できると思うのです。Withコロナ時代において、登山・アウトドア業界が担う役割はますます大きくなっています」

ライバルは登山業界の内側ではなく……。

 時代や需要に合わせて事業の幅を広げてきたヤマップにとって、一体どんな企業がライバルなのだろうか。やはり同じように、登山業界で情報を扱う企業なのか。 

「登山業界やアウトドア業界の企業をライバルだとは思っていません。そもそも他の企業をライバル視するような思考で経営をしていません。強いて言うなら、ゲーム業界やスポーツジム業界の企業でしょうか。家やジム施設より、自然の中で体を動かし時間を過ごすことの方が、健康的で楽しいですから」

 市場規模が小さい登山業界の中で、他社をライバルと意識したことはないと言う。むしろ、登山業界全体が盛り上がるためには、よりよいサービスがどんどん生まれてきてほしい、と。

【次ページ】 いま山に向かう人が増えている。

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