三浦の左ストレートが閃いた。

「内山さんが切ったことないっていうのは聞いていました。さすがに焦るんじゃないかって思いましたね。そして自分にとってはチャンスになるんじゃないか、と」

　三浦はジャブにひるまず、プレッシャーを強めていく。左の射程距離を強引に合わせていくように。左オーバーハンドを空振りしたところで一向に気にしない。その目は一発を狙っていた。内山はどこか流血が気になるようだ。

　残り50秒。

　三浦が動く。

　間合いを詰め、身を少しかがめてから体を浮き上がらせていくようなノーモーションの左ストレートが閃いた。

　バスッ、ドンッ。

　アゴにもろに食らい、腰からストンと崩れ落ちるチャンピオン。すぐに起き上がろうとするものの、体に力が入らないために余計にダメージの大きさがうかがえる。

「エアポケットというか、見えづらい」

　内山が振り返る。

「三浦の一発は怖かったんで、集中はしていたんです。でもエアポケットというか、見えづらいんです。スッとパンチが入ってきて。

　もっとパンチの振りが大きいのかと思ったんですけど、意外にストレートをシャープに打ってきて。やっぱり効いてましたよね。倒れて半回転して、力も入っていないわけですから」

　それでもすぐに起き上がる。倒したほうの三浦はどんな感触だったのか。

「拳に感触が残っていないから、正直こっちが驚いたくらいなんです。だから当然立ってくるなと思ったし、そのときの目が死んでいなかった」

【次ページ】　「やるべきこと」を頭のなかで整理していた。