「誰かにこの会話を聞かれたらまずい」

　だがテレビカメラが近づいてきたため、セコンド陣に“この話はするな”というように目配せをした。

「誰かにこの会話を聞かれたらまずいと思って、右手の話は一切なしです。あとで聞いたらマイクはついていなかったんで、会話は拾わないらしいんですけど。ただそのあたりも自分としては冷静だったかなとは思いますね」

　一方の三浦は内山のアクシデントに気づいていなかったという。

「そこはまったく（笑）。やっぱりテンパっていたところが自分にあったんじゃないですかね。確かにジャブが多いなとは思っていましたけど、まあこれも内山さんの作戦なんだろう、と。そうやって悟らせないあたりも内山さんの強さなんでしょうけど」

「採点を計算することなく戦っていました」

　試合後に公開されるジャッジは1、2ラウンドを終えて3者とも内山を支持。ただ三浦にポイント勝負の考えはない。左ストレートを当てて、倒して勝つ。それだけだ。

「日本タイトルを獲るくらいから、採点を計算することなく戦っていましたから。ポイントで負けていようが、気にならない。最終的に勝っていればいいので」

　2ラウンド、残り10秒でノーモーションからの左ストレートをヒットさせた。浅い当たりではあったものの、そこが1ラウンドより前進したところ。浅かろうが、当たることが本人にとっては重要だった。

　内山にさらなるアクシデントが降りかかる。

　3ラウンド開始から50秒、両者がアッパーを振ろうと中に踏み込んだ際にゴッツンと頭がぶつかり合う鈍い音がした。

　偶然のバッティングでカットしたのは内山のほう。目の付近を切って流血することなど今までなかった。三浦もその情報を把握していたという。

【次ページ】　三浦の左ストレートが閃いた。