オリンピック4位という人生BACK NUMBER
<オリンピック4位という人生(12)>
北京五輪 女子卓球・福岡春菜
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byAFLO
posted2020/07/05 09:00
韓国との3位決定戦、2連敗で追い込まれた3戦目のダブルスを平野早矢香(右)と戦った福岡春菜。
「メダルを取れたのは春ちゃんの……」
薄闇に光る文字列に手が震えた。
『メダルを取れたのは春ちゃんのおかげだと思っているよ。ありがとう――』
乾きかけた涙腺が決壊した。熱いものがとめどなく溢れた。しんとした部屋に嗚咽を響かせ、福岡は泣いた。砂に埋めた、あの日の自分に向かって泣き続けた。
「あの愛ちゃんのひと言で、私はようやく北京の記憶と向き合うことができたんです。さやかちゃんは帰国したあと、私にメダルをかけにきてくれました。私は失敗した。ずっとそう考えてきたんですけど、すごいことだったんだなと思えたんです。王子センターに行っていなければ私はなかったし、(石川)佳純ちゃんがもう1年早くデビューしていたら、私はたぶん北京には出られなかった。私の平凡な人生の中で、あれはほんとうに奇跡だったんです」
今、二児の母として陽だまりの中にいる福岡にはよくわかるのだ。
オリンピックは誰のものか。人生は誰のものか……。あのラケットは今もケースに入れて大切にしまってある。
福岡春菜(卓球)
1984年1月25日、徳島県生まれ。四天王寺高、日本大を経て、中国電力入社。'06年世界卓球団体戦では5戦4勝と健闘し、日本の銅メダル獲得に貢献。'15年現役を引退、会社の同僚と結婚。現在は育休を取得し子育てに専念している。
◇ ◇ ◇
<この大会で日本は…>
【期間】2008年8月8日~8月24日
【開催地】北京(中華人民共和国)
【参加国数】204
【参加人数】10,942人(男子6,305人、女子4,637人)
【競技種目数】28競技302種目(BMXなどが追加)