セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
冨安健洋がロナウドを前に魅せた。
地元紙も称えたタフネスと技術。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/06/24 18:00
あのクリスティアーノ・ロナウドを前にしても、怯まず食らいついた冨安健洋。技術とタフネスを世界に見せつけた。
「逃げのゲームはしなかったぞ」
「うちは逃げのゲームはしなかったぞ」
闘将ミハイロビッチは試合後、ニヒルな笑いを浮かべながら潔く負けを認めた。
「(コッパ優勝を逃した)ユーベの士気が高いことはわかっていた。だが、うちも今できる全力を尽くしたし、選手たちはやるべきことをやってくれた。ただ、彼らには現役時代の私がそうだったように、自分よりも強い相手と当たるときにこそ、より力を出せるようなメンタルの強さを持って欲しいものだ」
そんな指揮官の注文は1年前にベルギーからやってきた日本人SBには当てはまらない。
冨安は、バロンドール5度の“生ける伝説”クリスティアーノ・ロナウドを前に、萎縮する素振りすら見せなかった。相手とボールとの間合いを計りながら体を入れ、次のプレーのためにハイスピードで頭をフル回転させ続けた。
「楽しみという感覚はない」
「(ロナウドとの対戦に)正直、楽しみという感覚はないんです」
昨年10月、前半戦での対戦を直前の怪我で欠場した冨安にとって、今回のユーベ戦に懸ける思いは強いはずだった。地元メディアも今や完全にチームの主力に定着した“トミ”の口から「ロナウド」の名を何とか引き出そうと、さんざん腐心してきた。
ただ、冨安に話を聞いたとき、そんな俗っぽい興味の外に彼の真意があることを知った。
「僕の評価を上げるためには、世界的に有名な選手との対戦でしっかりと自分のプレー、自分の価値を証明しなければならないと思っています。どれだけ他の(下位)チーム相手にうまくやれても、ビッグクラブと対戦したときに自分らしいプレーを見せられなかったら評価はそこまで。そういった意味でビッグクラブとの対戦に特別な思い、モチベーションがありますね」
そう語る彼の顔つきは、“本物のプロ助っ人外国人選手”のそれだった。