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変わろうとする“白人社会”のMLB。
「皆と一緒に居心地の悪い会話を」
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byAFLO
posted2020/06/25 20:00
インディアンスのデライノ・デシールズも、MLBで人種問題に言及することに躊躇を感じていたと告白した。
NFLとMLBの温度差。
北米最大の自動車レース団体NASCARが、南北戦争時に奴隷制度の存続を主張して戦った南軍の旗を「すべてのイベントで使用禁止にする」と決定した時、それを「我がこと」のように扱ったのも、NFLネットワークだった。
そこでは「NASCARは南部のスポーツであり、その旗があたかも『これは我々のスポーツの旗だ』という風に掲げられていた」と、現役のフットボール選手を招いて激しく議論されていた。
キャパニックの膝つき抗議についてすら語ることのなかったMLBネットワークでは、触れたくない話題だったのかも知れない。
MLBで始まった居心地の悪い会話。
NFLとMLBの温度差は、郊外の小さな町と少し似ている。
シカゴから車で1時間ほど西へ行った地域=「District 204」は、3つの高校、7つの中学校、21の小学校があり、2019年の調査では全体で2万8000人の生徒がいる地区だ。
アジア人の生徒の割合が全体の30%と多い場所なのだが、一番多いのはやはり白人で、全体の42.4%を占める。以下、アジア人、ヒスパニック12%と続き、黒人は8.9%しかいない。
そんな場所では、庭先に抗議運動の象徴である「Black Lives Matter」の看板を掲げる家庭や、そのグッズ(Tシャツやリストバンド)を着用している人はほとんど見かけない。
そういう地区でも暴動は起きたし、コミュニティーのSNSでは「人種差別反対」が叫ばれているのだが、白人の多い場所では「人種差別」は「居心地の悪い会話」であり、目立たぬように過ごすのが賢明という判断に傾くのは無理のないことだ。
居心地の悪い会話=Uncomfortable Conversation。それが今、ようやくMLBでも行われているようになった。黒人の父と白人の母を持つデレク・ジーター現マーリンズ最高経営責任者は、MLBネットワークでこう言っている。
「皆と一緒にこの居心地の悪い会話をすることこそ、この問題を解決する唯一の方法なんだ」