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停滞MLBの論点は安全ではなくカネ。
足並み揃うNBAと対照的な無策ぶり。
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byAP/AFLO
posted2020/06/09 11:00
7月のリーグ再開に動き出したNBAとは対照的に不透明な情勢が続くMBL。レンジャーズの新球場では未だに試合は開催されず……。
MLBはフルシーズンの準備が必要。
付け加えておくと、コロナショック勃発の時期がMLBにはより厳しいタイミングだったことも無視できない。昨年10月に開幕したNBAは、コロナ患者発生によるシーズン中断時点ですでに今季の79%にあたるゲーム数を消化していた。再開を目指すなら、最も重要なプレーオフを軸に据えて準備を進めていけば良い。
それに比べると、まだシーズン開始もしておらず、フルシーズンの準備が必要なMLBは状況がまったく違う。もともとMLBは約6カ月をかけて162試合とプレーオフを行うマラソンだ。今季は短縮シーズンを余儀なくされるとしても、プレーオフに価値を見出すための試合数とスケジュールを用意しなければいけない。
お金の話に戻ると、NBAのようにシーズン終盤だけを埋め合わせるのでなく、MLBは1年を通じた収入減に対応しなければならない。ロブ・マンフレッド・コミッショナーいわく、MLBの収益の40%は入場料、試合当日の飲食、駐車場代などからもたらされているという(経済誌フォーブスによるとNBAの入場料収入は全体の20~25%)。これをフルシーズンにわたって失った上で、オーナーと選手は残りのパイを取り合うのだから紛糾するのも仕方ない。この収益分配の問題も、NBAのように残りゲームが少なければよりフレキシブルな対応が可能だったのではないかとも思えてくる。
“金持ちの銭闘”は印象が悪い。
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こうして振り返っていくと、MLBはより厳しい状況での再開プランを余儀なくされてきたことが見えてくる。ただ、たとえそうだとしても、スポーツファンは同情的ではないだろう。全米で莫大な失業者が出ている中で、“金持ちの銭闘”はあまりにも印象が悪い。考えたくないことだが、冒頭のカークジャン記者の言葉通り、このままシーズンが中止された場合の代償は極めて大きいのではないか。
5月上旬時点で、MLBは7月4日のアメリカ独立記念日の開幕を目指すと伝えられていた。本当に独立記念日に球音が響いていれば、米スポーツ史に残る祭日として歴史に刻まれていたはずだ。しかし――現状では“ナショナル・パスタイム(国民的娯楽)”の早期開幕を想像するのは難しい。悲しい思いとともにインディペンデンス・デイを迎えることになりそうな予感が漂い始めている。