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野球の旨味は「決定的瞬間」の前後。
試合を“通し”で見ることの新鮮さ。
posted2020/05/28 19:00
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
Kyodo News
それは懐かしいというより、新鮮な感じだった――。
5月中旬のある朝、いつものようにMLBネットワークにチャンネルを合わせると、いきなり白黒の画面が現れた。
「テレビが故障したのかな?」と思いきや、それはまだカラー放送がない時代=1965年のワールドシリーズ第5戦で、殿堂入り左腕のサンディー・コーファックスが、ミネソタ移転後初のリーグ優勝を果たしたばかりのツインズを4安打10奪三振で完封した試合だった(ツインズの前身は1960年までワシントンDCを本拠としたセネターズ)。
往年の「名勝負」や「名シーン」がスポーツ専門のテレビ局で流されること自体は珍しいことではないが、それは「ほとんど全球の録画中継」だった。投手交代やイニング間の無駄な時間をうまくカットしてあるものの、今まで静止画像=写真や「名場面」の短い映像でしか見たことのないコーファックスが、「普通に動いている姿」が妙に生々しかった。
その感覚はやがて、コーファックスだけではなく、彼と打席で対峙していたトニー・オリバやハーモン・キルブルーが、まだバッティング・グローブが珍しかった時代に土を掴んで両手を擦り合わせたり、スパイクについた土をバットで叩き落す仕草からも伝わってくるようになった。
ノーラン・ライアンが初優勝を逃した試合。
『なんでやろな?』と思いつつ、翌日もテレビをつけっ放しにしていると、今度はフィリーズがアストロズを3勝2敗で下した1980年のナ・リーグ優勝決定シリーズ(NLCS)の第5戦(当時は各リーグ2地区制でプレーオフは優勝決定シリーズ5試合とワールドシリーズのみだった)が放映されていた。
それは「レインボー・カラー(実際には4色ぐらいだった)」と呼ばれた派手なユニフォームを着たノーラン・ライアンが、3点リードして迎えた8回、押し出し四球を出すなどして一気に4失点し、目前まで迫っていた初優勝を逃した試合だった(延長10回フィリーズが8-7で勝った)。