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プロレスは市民に必要不可欠か?
フロリダ州知事の特別許可で論争。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2020/05/05 11:00
4月上旬に無観客試合、インターネット配信イベントとして開催された「レッスルマニア」で、アンダーテイカーに生き埋めにされたAJスタイルズ。
トランプ大統領とも特別な関係にあるWWE。
WWEに対する政治的配慮も語られている。
WWEのリンダ・マクマホンはトランプ政権誕生時には中小企業長官も務めたことがある。さらに、トランプ大統領はリンダの夫のビンス・マクマホン会長と仲がいいし、WWEのリングに上がったこともある。WWEからは過去にもトランプ陣営に多額の政治献金がなされたし、今回も1850万ドルの献金がなされて、5月1日から大統領選に向けてのフロリダ州でのテレビ広告料として使われることになっている。
ともあれWWEは、外出制限によるイベント活動停止となる直前で、試合のライブ配信という権利を手にしたわけだ。ただ、週2回のライブ配信を実行するためには、映像スタッフを含めて、それなりの人がフロリダへの移動を繰り返すか、フロリダに留まるということになる。
さらに、プロレスは最も肉体的に「濃厚接触」のリスクが高いもので、世界レスリング連合(UWW)も注意喚起している。
WWEは試合ごとの施設の消毒を徹底することを条件にしたようだが、その時点で、すでに2人のスタッフが感染していて、これから先の感染をゼロにすることは難しいだろう。
極端な例かもしれないが、これから時間が経って、さらに感染が進んで、もしレスラーの半数ほどが感染したら、新型コロナウイルスからカムバックしたレスラーとスタッフだけで試合を進める――ということも決して仮定の話ではなくなってくるのではないか。
巨額なマネーを生み出すWWEという団体。
フロリダ州は4月18日に市民のストレス緩和に一部のビーチを解放し、5月からは経済を優先する形で、通常のビジネスの再開を容認した。
4月末の時点で、新型コロナウイルスによるアメリカの感染者数は100万人を超え、死者は6万人以上になった。これはベトナム戦争での死者数を上回る数字である。ニューヨークほど悲惨ではないが、フロリダ州に限っても、感染者約3万3000人、死者は約1200人だ。
WWEにとっては反対勢力である団体のAEWも、フロリダのジャクソンビルに本社ビルを構えトレーニングセンターもあるため、WWE向けに出された恩恵を同時にうけることになり、AEWも毎週水曜日のテレビマッチ「ダイナマイト」を配信し続けている。
巨額なマネーを稼ぎ出すWWEは経済的に、フロリダ州にとっては米国の主要企業に匹敵する価値があるという評価だ。
例えば、テキサス州ではガンやピストルの販売店が必要不可欠なビジネスであるのと同じように。
ただ、自らの命を削って、感染者の救命に当たっている医療従事者と同列に近い扱いに対しては、「経済の回復」というテーマがあるにしても「馬鹿げている」「あきれてしまう」「市民の健康を考えていない」という声が多く挙がったのも事実である。
では、日本のプロレスはどうなるのだろう。