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ランキング下位層はテニスの未来か。
BIG3の救済案とティームの異論。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2020/05/04 11:40
BIG3の救済案が話題になった一方で、ティームのような提言があることにもテニス界の知性を感じる。
マドリードのeスポーツも支援に。
トップの選手が下の選手を救済するために自分たちの賞金をカットしてくれという――これはこのコロナ禍で他のどの競技でも、どんな業界においても例がないだろう。つぶれそうな小さな飲食店を助けるために、余裕のある大手飲食店が動くだろうか。仕事の減ったテニスライターに手を差し延べてくれる同業者も組合も当然ながら存在しない……。
しかも、テニスプレーヤーのそれは国も大陸も超えたグローバルなものなのだ。
そういえば、現在開催されているテニスプレーヤーによるeスポーツイベント、『ムチュア・マドリード・オープン・バーチャル・プロ』でも優勝者の賞金のうち任意の額が「経済的に苦しい選手」の支援に充てられるという。
グランドスラムの賞金の増額率も。
少し話が逸れるが、過去にはこんなことがあった。
毎年増額がニュースになるグランドスラムの賞金だが、増額率でいうと、2012年以降はたとえば優勝賞金よりも早いラウンドの賞金のほうが大きい。
こうした配分を要求したのは、ジョコビッチ、ナダル、フェデラー、マリーという当時のビッグ4だった。ウィンブルドンを主催するオールイングランドクラブのフィリップ・ブルック会長は「こういうことは他の競技で例を見ない。彼らの行動には頭が下がる。トップにふさわしい資質を備えた本物のトッププレーヤーたちだ」と話したものだ。
彼ら自身は、初めてプロの大会に出場してから1年4カ月以内にトップ200を切り、そのときの年齢は16~17歳だ。にもかかわらず、なぜそんなに下位の選手を気にかけるのか。
ジョコビッチはワウリンカにこう語っていた。テニスのエコシステム、つまり成り立ちと構造を守りたいのだと。
「200位とか250位以下の選手たちはテニスの草の根でもあり、テニスの未来でもある。そこが地盤であることを僕たちは皆知ってる。だから僕たちは一つになって彼らを助けなくてはいけないし、彼らが置き去りにされてはいないことを示さなくてはいけない。若い選手には、こんな経済的な危機の中でも、将来テニスで生きていけるというメッセージを発信しなくてはいけない」