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シェルバコワの衣裳が一瞬で変わる。
その秘密をデザイナーに直接聞いた。
text by
いとうやまねYamane Ito
photograph byAsami Enomoto
posted2020/05/06 15:00
2019-2020シーズン、シェルバコワはFSの演技中、衣裳を青から赤に一瞬で変えていた。
世界をあっと言わせたシェルバコワの衣裳。
2019-20シーズンのグランプリファイナルは2位、地元ロシア選手権では昨シーズンに続いて優勝を果たしたアンナ・シェルバコワ。複数の4回転ジャンプをものにする16歳だ。
今季のFSにおける、ボブコワがデザインしたプログラムの途中で色が変わる衣裳は、演技と共に大きな話題になった。
――この衣裳はシェルバコワのコーチ、エテリ・トゥトベリーゼ氏からの要望だったと聞きますが。
「以前、アンナ・ポゴリラヤのアイスショーで同様の衣裳を作ったことがあり、それで依頼が来たのだと思います」
ポゴリラヤの演出はフォーマルな黒のスーツから一転、煌びやかな金のドレスに変わるというもの。2014-15シーズンのEX「Rise Like a Phoenix」で披露され話題を呼んだ。
「今回難しかったのは、シェルバコワの衣裳はショーのためのものではなく、競技用だということです。ふたつはまったく異なる性質で、競技用の場合はより要件が多くなります。
いくつかのデザインを用意しましたが、私がいちばん気に入っているものが選ばれました。素材サンプル、色、全てにおいて、トゥトベリーゼ・コーチは私の提案に同意してくれました。
ドレスの構造は見た目の印象ほど簡単なものではなく、しかも発表までは“秘密”にしなければなりませんでした」
変身のための動きを訓練する時間が必要。
プログラム前半は、エリック・サティの『グノシエンヌ』で構成され、シェルバコワは青いシンプルなドレス姿で演技する。
後半、曲がストラビンスキーの『火の鳥』に変わると、コンビネーションスピン後の回転の中で、曲名さながらの真っ赤なドレスに早変わりする。
胸元のロックを外すとファブリックが落下し、赤い裏地が青いスカートを覆う仕組みだ。それと共に上半身に隠されていた赤い鳥の羽根をモチーフにした柄が現れる。
「今回の早変わりの方法は、この衣裳のために思いついたものです。シェルバコワは演技に加え、変身のための動きを訓練する時間が必要になりました。
本番でプログラムに時間の影響を与えてしまっては元も子もありません。ここは非常に重要な点です。そのため、ドレスの重さ、素材の質感にも注意を払いました。
ストレッチネット、シフォン、薄いサプレックス(注・素材の名前)、そしてラインストーンも。私はこの衣裳の出来に非常に満足しています」
――お客さんの反応がとてもいいですね。大歓声が上がり、前半とは雰囲気を一変させます。
「これはすごい! と方々から伝え聞きます。昨今、どの選手も競争力のある素晴らしい衣裳を着ていますが、それらを決定するすべてのコーチがこのような大胆で実験的なことにチャレンジ出来るわけではありません。トゥトベリーゼ・チームだから出来たと言っても過言ではない。トゥトベリーゼ・チームは新しいことに非常にオープンで、進歩を止めません」