フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
怪我から復帰直後の平昌五輪で──。
羽生結弦が見せた「王様のジャンプ」
posted2020/05/04 19:00
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
JMPA
『Sports Graphic Number』は創刊1000号を迎えました。それを記念してNumberWebでもライター陣に「私にとってのナンバー1」を挙げてもらう企画を掲載しています! 今回はフィギュアスケートを中心に取材を続ける田村明子氏が、怪我をしていた王者・羽生結弦が平昌五輪に向けて高らかに“復帰宣言”した瞬間を描きます。
2018年2月6日、自宅のあるニューヨークから東京経由でソウルに飛んだ。目的地はソウルからさらに電車で2時間あまりの江陵。およそ3週間に及ぶ、平昌冬季オリンピックの取材のためだった。
ライターになってから迎える、6度目の冬季オリンピックだった。4年に一度の特別な大舞台とは言うものの、胃の中に石が詰まったように、身体も気持ちも重かった。
江陵は1年ぶりだった。2017年2月、オリンピックのテストイベントとして本番用の会場で四大陸選手権が開催されたのだが、運営上の不手際が目立った大会だった。
現地の運営スタッフ、ボランティアたちの態度も、お世辞にもフレンドリーとはいえなかったのは、私が日本人だからということもあったのだろうか。
できることなら二度と戻りたくないと思ったあの荒涼とした土地で、これからたっぷり3週間過ごすことになる。
仁川空港から鉄道に乗り換えて、江陵に近づくにつれ気持ちが沈んでくるのを抑えるのは難しかった。
羽生結弦の情報が、ほとんど入ってこない。
気分が重かった理由は、もう一つあった。
オリンピック2連覇がかかっている羽生結弦の情報が、ほとんど入ってこないことだった。
2017年11月9日、NHK杯の公式練習中に右足首の靭帯を損傷してから、平昌オリンピックまでの3カ月、彼の姿を目にした報道関係者はいなかった。日本スケート連盟を通して、1月に練習を再開したという発表があったほかは、彼がどのような状態でいるのか、誰も知らなかった。